骨董品や美術品を鑑賞するときに気になるのが「よいとされるもの」の基準です。名品・名作・名刀の判断基準とはいったい何なのでしょう？何か共通する価値基準があるのでしょうか。それならば、具体的な名刀の条件とは何なのでしょうか？本記事では、いくつかの視点から見た名刀の基準に対する考え方についてお伝えします。
視点を変えて刀剣のよさを知る
それでは、私たちを惹き付けてやまない「名刀」とされる日本刀の条件とは何でしょうか。現代でも、日本刀は単なる武器であると思っている方も多いのが現実です。
しかし、そういった色眼鏡を外して見てみると「無駄のない洗練された刀姿の美しさ」「深く青々とした地鉄（じがね）の鍛え込まれた美しさ」「杢目（もくめ）状に織りなされた鉄肌の精微な美」「星のようにきらめく刃文（はもん）の美しさ」「祈りを込めた刀身彫刻の素晴らしさ」などの複雑な美が、渾然（こんぜん）一体となった日本刀から観えてくるはずです。と説明しても、日本刀好きが誇張して美辞麗句を並べて説明しているのではないかと思う人もいるかも知れません。
または、名品・名作と評価されているものは「何か基準となる目安があるのか」「専門家とされている人が勝手に判断しているだけではないのか」と懐疑的に思う方もいるでしょう。専門家や日本刀好きの評価は、本当に正しいものなのでしょうか？
ここで、もし「日本刀は武器でしかない」と思っている方がいれば、少し視点を変え日本刀を美術品として見てみることをおすすめします。美術品として日本刀を見る際には「機能美の極致ともいうべき姿」「素材の鉄そのものの持つ美しさと、鍛錬（たんれん）によって生み出された鍛肌（きたえはだ）の美しさを魅せてくれる地鉄」「刀身の上に浮き上がる白い雲のような波模様の刃文」に注目することがおすすめです。「ただの武器」ではない、日本刀の魅力が浮き上がってくることでしょう。
改めて考える「名刀の基準」
それでは美的な視点から観た、名品・名作・名刀の判断基準とは具体的に何なのでしょうか。日本刀に限らず、美術品の名品・名作・名刀には、3つの要素が備わっているといわれています。
きれいな物を見たとき、人はどんな反応をするのでしょう。きれいなものを見たら「人は感心する」、美しいものが理解できたら「人は感動する」、あくまでも比喩ですが、その言わんとする意味は分かります。これがまず1点目の要素です。
次に絵を見たときに、美術に多少でも興味がある方ならピカソの絵・ゴッホの絵ぐらいはサインを見なくてもすぐに分かります。これは、作者それぞれにオリジナリティーがあるからです。日本刀も同様であり、美術品に限らず重要なことです。これが2点目の要素。
そして最後になりますが、名品には高い精神性が感じられます。カメラでリンゴを撮影しても、例外を除いてリンゴの姿かたちは写せても、リンゴの気持ちは写せません。それに対し印象派の画家達の絵は、写真のように描いている訳ではないのに、精神的な何かが伝わってきます。これが3点目の要素になります。
以上の3要素が備わったものが、名品の基準といえるでしょう。日本刀を鑑賞する際にも、これらの要素を観察・勘案することが非常に大切です。しかし、日本刀への理解をより深めるには、ただ観てその美しさを確認するだけでなく、実際に日本刀を手に取りさまざまな角度から楽しむことが近道になります。
ただし、その際には持ち方などの注意点があるため、事前にしっかりと取り扱いを学んだうえで実践することが大切です。日本刀の鑑賞に関する知識を事前に学んでから鑑賞し、離れた場所から見るのとはまた違った日本刀の魅力を発見してみましょう。
機能性・実用性だけが重要なのか
先述したように日本刀の価値は、機能性・実用性だけではありません。もちろん「折れず・曲がらず・よく切れる」という機能は、日本刀として大切なものではあります。極限を追及したことで生まれた美しさや機能美も、その中から現れています。
しかし、名刀とされる日本刀は、そういった機能性や実用性からのみ判断されているわけではありません。たとえば、露店で売っている500円のコーヒーカップと、専門店で売っている3万円もするコーヒーカップの機能は同じです。しかし、値段の差は歴然としています。この差こそ、美的価値観によって生まれるものであり、日本刀についても名刀の条件は、絵画や陶磁器と共通する美的価値観によるのです。
まとめ
ここまで「日本刀における名刀の基準」について、「視点を変えて刀剣のよさを知る」「改めて考える名刀の基準」「機能性・実用性だけが重要なのか」といった素朴な観点から説明しました。日本刀は、機能性・実用性を高いレベルで実現しているとともに、美・独創性・精神性を兼ね備えた美術品です。そういった別の視点から日本刀を改めて眺め、鑑賞を楽しんでみてください。