日本刀は、日本が世界に誇る美しい伝統工芸品のひとつです。刃物としての実用性を持ちながら、美しさを兼ね備えるその佇まいは、いつの時代も見る者の目を惹きつけて止みません。とくに芸術性の高いものであれば、その価値はより高く評価されることでしょう。ここでは、日本刀の売却時に起きやすいトラブルについて紹介します。
強引な営業・買取訪問
買取業者が自宅にやってきたところで言葉巧みに家に上がり込み、こちらが売却するつもりのない高価な品物などを、業者の都合で安い値段をつけて「買った」ということにし、持ち去る、という詐欺の手口があります。これは「押し買い」と呼ばれるものです。
悪質な場合は、業者の名刺や買取のための書類どころか古物商の免許自体取得していないといったことすらあります。日本刀だけでなく骨董品全般の売却において発生している悪徳商法ですので、まずはこのような手口があるということを知っておきましょう。とくに高齢者が被害に遭いやすい傾向があるようです。
また、このような被害に遭わないために買取業者の選定を慎重に行うことが重要になります。買取に際し充分な説明を行う、取引のための書類をきちんと用意している、特定商取引法に基づくクーリングオフに関する説明があるなど、信頼のおける業者に買取の依頼を行うようにしてください。間違っても、突然訪問してきた業者を家に入れてはいけません。
日本刀の価値を分かっていない
これも骨董品全般の売却についてもいえることですが、買取業者が価値を充分に理解していないということがあります。そもそも骨董品とは「希少価値のある工芸品・美術品」のことです。そして、その種類は日本刀だけでなく、絵画や掛け軸、陶磁器や茶道具など多岐にわたっています。骨董品の買取業者は無数にありますが、扱う商品の種類が多い分、買取業者によって得意不得意の分野は違っているのは当然。
選んだ業者が日本刀に詳しいとは限らないのです。日本刀の価値を理解して正しい評価を受けるためには、事前に買取依頼予定の業者の得手不得手を聞いておく、インターネットなどで相場を調べておくなどといった方法があると思います。
ここでひとつの目安として紹介したいのは、買取を依頼する業者が刀剣評価鑑定士の資格を所持している刀剣商であるかです。刀剣評価鑑定士とは、「全国刀剣商業協同組合」が創設した刀剣商の専門資格です。同組合では日々日本刀についての啓蒙活動を行っています。同組合が認定した資格を所持した刀剣商であれば日本刀について正しい評価を行うことが可能です。
必要な書類が用意できていない
いざ日本刀の買取を依頼する際に、往々にして必要な書類が充分に用意されていないという場合があります。日本刀を売却するときには、日本刀本体やその付属品の他に、その日本刀の銃砲刀剣類登録証および身分証明書が必要です。
銃砲刀剣類登録証とは、人間でいうところの戸籍にあたるものなので、登録証のない刀は銃刀法違反として、売ることはおろか所持することも許されません。売却する日本刀の登録証記載の名前や住所が所有者のものとは違う場合は、売却できないので速やかに所有者変更手続を行ってください。
また、相続等が原因で引きついだ場合等、万が一登録証がない場合があると思います。この場合は最寄りの警察の生活安全課に相談してください。正規の手続きや審査を経ることで登録証の発行を受けることができますよ。次に、身分証明書についてですが、これは日本刀が古物に該当することから、盗品等の混入を防ぐため、売買の際に本人確認が義務付けられているためです。
買取で失敗しないためには
確かな知識を持つ買取業者に依頼することが日本刀の買取において失敗しないための第一歩ですが、それ以上に依頼する側が売却予定の日本刀について理解しておくことが重要です。そもそも日本刀を含む刀剣とは、鋼鉄製の刃を使用する武器の総称ですが、武器としてだけでなく、祭神具、観賞用など、時代や場面によってさまざまな用途で用いられてきました。
時代や刀工によっても少しずつ日本刀の形は異なります。美術的価値が高いか、つくられた時代はいつか、刀工は誰か、銘が入っているかなどによって現代における日本刀の価値は変わってくるため、売却予定の日本刀についてもよく確認をしましょう。
また、保存状態によっても価値は変動するので注意が必要です。拵、鍔といった付属品があるかも確認しましょう。白鞘に収められているような日本刀は付属品がある可能性があります。調査の足掛かりや本物かどうかの証拠になるのが鑑定書です。鑑定書がある場合には、売却の際に忘れずに提示しましょう。
ここまで日本刀の売却時に起こりやすいトラブルについて紹介しました。業者の選定においては悪質な訪問買取に依頼しないことや、正しい評価が行える知識を持った業者に依頼することが重要です。
また、売却の際に必要となる書類を過不足なくそろえることはもちろん、鑑定書などを足掛かりに、売却予定の日本刀について売り手側が理解を深めることが、評価を高めるための重要なポイントになります。気持ちよく取引ができるように、事前の準備は充分に行いましょうね。