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公開日:2025/12/05  

京都国立博物館所蔵の国宝、太刀 銘 安家とは?

京都国立博物館所蔵の国宝、太刀 銘 安家
本太刀は、平安時代末期に活躍した刀工、安家の手によって作られました。

概要

太刀 銘 安家(やすいえ)」は、京都国立博物館が所蔵する国宝の刀剣で、平安時代末期の作と考えられている古伯耆鍛冶(こほうきかじ)を代表する日本刀です。 伯耆国(ほうきのくに・現在の鳥取県西部)で活躍した刀工・安家による在銘作であり、安家作として確実視される唯一の作品として日本刀史上きわめて重要な位置を占めています。 細身で腰反りが高い優雅な姿と、地鉄・刃文の調和が見事で、古代的な素朴さと平安末の洗練を併せ持つ名品です。 黒田家伝来の由緒を持ち、昭和10年に重要文化財、昭和28年に国宝に指定されており、平安末期の湾刀から本格的な日本刀への移行期を物語る基準作として、刀剣研究や鑑賞の場でたびたび言及されてきました。 現在は独立行政法人国立文化財機構所有として京都国立博物館に収蔵され、平安刀剣の精華を今に伝えています。​

作刀の歴史

安家が活動した平安時代末期は、中国山地一帯山砂鉄の生産が盛んになり、刀剣・甲冑・農具などの鉄製品が大量に作られた時期でした。 伯耆・備前といった地域では、直刀から反りを持つ鎬造りの日本刀への転換が進み、後世の太刀様式の源流となる湾刀が生み出されます。 安家は、平治年間前後に活躍したとされ、名刀「童子切安綱」を鍛えた安綱一門に連なる刀工で、古伯耆と総称される系譜の一角を担いました。 伯耆鍛冶は本来、黒味を帯び地斑が現れる個性の強い地鉄で知られますが、「太刀 銘 安家」は備前古作に通じる細い板目と穏やかな乱れ刃を備え、中国地方の作刀技術が相互に影響し合っていたことを示す貴重な資料です。 こうした歴史的背景を踏まえると、本刀は単なる一振の名刀にとどまらず、日本刀が武器であると同時に美術工芸品として成熟していく過程を示す、時代の証言者といえるでしょう。​

刀工について

安家は、伯耆国に拠点を置いた古伯耆鍛冶の一員で、安綱の子とも一門の有力刀工とも伝わる人物です。 現存する確実な作例は極めて少なく、とりわけ在銘作はこの京都国立博物館所蔵の「太刀 銘 安家」のみとされるため、刀工像の復元には本刀の観察が決定的な手掛かりとなっています。 茎に刻まれた「安家」の二字銘は、位置や書風が安綱銘と非常によく似ており、工房内で技術だけでなく銘の切り方まで綿密に継承されていた様子を物語ります。 作風は伯耆的な地斑肌の要素を残しつつ、備前風の洗練された地鉄と小乱れに丁子を交える刃文を示し、単一流派に回収できない柔軟な造刀姿勢がうかがえます。 刀剣研究の分野では、安家は古伯耆から鎌倉初期の多様な日本刀様式へ橋渡しを行った存在として評価されており、その意味で本刀は刀工本人の個性と時代性がもっとも純粋な形で刻まれた資料といえるのです。​

刀身の特徴

「太刀 銘 安家」は、細身で腰反りが高く、元に踏ん張りを持たせた優雅な姿を示す典型的な平安末期の太刀です。 小鋒で品のある先端部と、佩用時にバランス良く収まりそうな反り具合が調和し、武器としての実用性と儀礼具としての格式の両面を感じさせます。 地鉄はよく詰んだ細かな板目で、ところどころに伯耆物特有の黒味を帯びた肌合いが覗き、焼き刃を支える下地としての強靱さと、鑑賞に耐える繊細な表情を兼ね備えています。 刃文は小乱れに丁子が交じり、足・葉がよく入り、金筋がかかるなど、静かな中にも変化に富む働きが見られ、光の角度によって刃中が生き物のように揺らいで見えます。 茎は栗尻で磨上げられておらず、創建時のままの姿を保っている点も重要で、目釘孔上の棟寄りに切られた銘によって、平安末の太刀が当時どのようなバランス・寸法で佩かれていたかを具体的に知る手掛かりとなっています。​

まとめ

京都国立博物館所蔵の国宝「太刀 銘 安家」は、平安末期の古伯耆鍛冶を代表する刀剣として、日本刀の成立史を語るうえで欠かせない一振です。 細身で腰反り高い姿、板目のよく詰んだ地鉄小乱れに丁子を交える刃文、そして安綱一門との強い関係を示す銘など、一本の刀身の中に技術史・美術史・系譜論の諸要素が凝縮されています。 黒田家伝来の由緒と、重要文化財から国宝への指定という評価の推移は、日本刀が単なる武器から日本文化を象徴する美術工芸品として再認識されてきた過程をも映し出しています。 刀剣や日本刀について調べる方にとって、「太刀 銘 安家」は平安時代の作刀環境古伯耆と備前の技術的交流、そして在銘古作が持つ証拠としての価値を一度に学べる、きわめて教育的・鑑賞的価値の高い国宝です。

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