拵(こしら)えとは刀の外出着、外に出るときには必ず着ていなければならないものです。
つまり、鞘を含む刀装すべてのことを言います。
すべての刀装とはすなわち、鞘、鍔、柄を指します。
外出用の鞘を拵えと呼ぶことに対し、自宅保管用の室内着の役割をする鞘を白鞘(しらさや)と言います。
白鞘の美しさもさることながら、拵えは外出着として多くの人の目に触れるためさまざまな装飾が施されています。
高い美術性を示す拵えは身分や権威を誇示するものでもあり、武士たちは複雑な細工や装飾を競い合いました。
機能性と芸術性の追求
当初は刀身と自らの身を傷つけないことを目的としていた拵えですが、時代の経緯とともに装飾性を増し、機能的に改良されました。
鞘や鍔、柄それぞれに対する専門職があり、精緻な技巧が施されました。
鞘を作る鞘師、鞘に塗る塗師、はばきや鍔を作る白銀師、柄に紐を巻く柄巻師などそれぞれの職人が役割分担しながら係わり技術の髄を尽くしたのです。
まさに拵えていく作業です。
① 鞘の役割
拵えのうち、刀身の保護と自らの身の安全という目的にもっとも重要な役割を担うのが鞘です。
鞘だけで拵えと呼ぶ場合もあります。
日本刀は太刀と打刀の違いにあるように反りや刀幅など、時代や作者によって大きく異なります。
そのため、それぞれにオリジナルの鞘が必要なのです。
鞘は刀身の形と柄の大きさデザインに合わせて丁寧に作られます。
鞘と柄が一直線上につながっていない日本刀も稀に見受けられますが、経年劣化や未熟な技術が想像されます。
鞘を作る職人を鞘師と言い、鞘にもっとも適した材質の木はホオノキと言われています。
② 鍔の役割
鍔のない日本刀もありますが、柄を握る手が刀身へずれ込まないストッパーとして、あるいは刀身と柄の重量バランスをとるために、鍔の拵えのある日本刀が一般的です。
鉄や真ちゅうを素材とし、形や装飾もさまざまで、日本刀鑑賞における最大の楽しみは鍔を凝視することだという方もいるほどです。
形は丸型、角型、あるいは木瓜型(もっこうがた)と呼ばれるものもあります。
動物や花をあしらった細工が施されたり、切りこみや穴に金銀をはめ込む金布目象嵌の技法が用いられたりして精緻を極めた装飾が為されます。
鍔のない日本刀を仕込み杖と言い、暗殺や護身用として用いられました。
③ 柄の役割
鍔と並んで、拵えのうちでもっとも装飾性に富んで日本刀の顔のような存在感を示しているのが柄です。
柄は柄木に鮫皮、さらに柄巻き、頭と縁、目貫によって構成されています。
順を追った制作過程があり、一つとしておろそかにできません。
柄巻きだけを専門とする巻師という職人もいます。
柄巻きは柄を握る手の滑り止めの効果、鮫皮には柄巻きを滑らせず巻きやすくする効果が、目貫は柄から刀身が抜けないための目釘の頭部に被せられます。
それぞれに必要な役割があり、ひとつ欠けただけでも日本刀を形作ることはできなくなります。
そして、ひとつひとつのパーツに細やかな装飾が為されているのです。
頭は柄の先端に被せる金具、柄木が外れないように固定するものです。
帯刀したときに他者の目にもっとも入りやすい場所です。
そのため、多くの武士たちは日本刀の頭に威厳を賭けた装飾を施しました。
日本刀において、柄を顔とすると頭は目、武士がいかに第一印象を大切にしていたかを窺い知ることができます。
頭と対になる鍔側に被せる金具を縁と言い、合わせて縁頭と呼びます。
縁頭はそれぞれ小さなパーツに過ぎませんが、日本刀の根幹を担う非常に重要な存在です。
④ 下緒(さげお)
鞘に付いている組み紐のことを下緒と言います。
絹や皮を素材とし、元来は日本刀を腰に固定するために付けられたものです。
けれども、腰帯に差す打刀が流行するようになるとその必要性はなくなり、役割を鞘の落下防止や不意の盗難防止へと変え、腰帯に結び付けるようになりました。
やがて鞘自体に返り角と呼ばれるフックが作られ、腰帯に引っ掛けることができるようになると鞘と鍔に巻き付け固定して刀を抜かないという不戦の意思表示に用いられるようになりました。
⑤ 目貫(めぬき)
目貫とは刀を柄に固定するための目釘の頭部の装飾です。
金属製のものが用いられ、動物や植物をあしらったものが多く作られました。
装着にはルールがあり、動物の場合は頭を相手側、つまり刀身側へ、植物の場合、根を刀身側へ向けることが良いとされました。
逆に向けることは逃げ目貫と言われ嫌われる傾向にあったそうです。
目貫ひとつにも専門の職人がいました。
日本刀は職人技の結集した総合芸術
拵えのことを外出着とはよく言い表したものです。
帽子からサングラス、シャツにブレザー、スラックスとシューズ靴下に至るまで、どれひとつ外しても恥ずかしくて外を歩けなくなります。
拵えに鞘や柄の合わせがずれていたりデザインや色の異なる柄と鞘というものはちぐはぐで可笑しみさえ感じてしまいます。
日本刀は、刀身の鍛えと美しさはもちろんのこと、刀装のすみずみに至る職人の技の結集によって作られた総合芸術と言えます。
素材や技術を絶やすことなく未来に継承していくべき日本文化です。