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公開日:2024/02/01  

子狐丸ってどんな刀?能の「小鍛冶」に歌われる伝説の刀剣をご紹介!

能の「小鍛冶」に歌われる伝説の刀剣
日本の伝統芸能である能の詞章「小鍛冶」では、小狐丸(こぎつねまる)という刀に関することが歌われています。この刀は「狐が刀づくりを手伝った」という伝説から、この名で呼ばれるようになりました。そんな不思議な伝説を持つ刀・小狐丸と、その生みの親である刀工・三条宗近(さんじょうむねちか)について詳しく解説していきます。

小狐丸とは

小狐丸という刀は、歴史のなかで複数同名のものが存在しています。現存するものだと、奈良県石上神宮(いそのかみじんぐう)に収蔵されているものは、備前の刀工・義憲(よしのり)が作ったとされる鎌倉時代のものです。大変貴重なこの小狐丸は、奈良県の有形文化財に指定されています。

そして今回解説するのは、刀工・三条宗近が平安時代に、一条天皇に収めたとされる小狐丸です。現存が確認されていない刀ですが、日本の伝統芸能である、能の詞章「小鍛冶」で歌われていて、広く名が知られています。なぜこれほどまでに有名なのでしょう。

実はこの刀を作った刀工・三条宗近と小狐丸には、ある逸話が残っているからです。その逸話とは、小狐丸の名前の由来にあります。宗近は神の化身の狐と一緒に、この刀を作り上げたという逸話です。この不思議なエピソードがもとになり、小狐丸と呼ばれるようになりました。いったい、三条宗近とはどんな人物なのでしょうか。

生み出したのは刀工・三条宗近

能「小鍛冶」で歌われている刀・小狐丸を手掛けたのは刀工・三条宗近です。宗近は、一条天皇が平安京を収めていた時代に、名刀工として数々の刀を手掛け有名になった人物です。彼は名刀工であったがゆえに、様々な逸話があります。たとえば、82代天皇後・鳥羽上皇や、平安時代の僧兵・武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)の愛刀を手掛けたとされる逸話です。

このような逸話から、彼が刀工として、いかに腕をふるったかがわかります。宗近が手掛けた名刀の数々は、残念ながら、小狐丸をはじめ、現存が確認されていないものがほとんどです。そんななか、宗近作の刀の現存品でもっとも有名なものは、次に紹介する三日月宗近(みかづきむねちか)でしょう。

三日月宗近

宗近が手掛けた現存している刀で、最も有名なものが、三日月宗近です。刃文が三日月模様のように見えることから、この名で呼ばれるようになりました。三日月宗近は、かの有名な戦国武将・豊臣秀吉の妻・高台院が所有していました。

その後は、徳川幕府2代目将軍・徳川秀忠の手に渡ります。現在は東京国立博物館が国宝として所蔵しており、大変貴重な刀です。2022年3月に東京国立博物館の創立150周年を記念した特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」では、めったに展示されない三日月宗近の貴重な実物が展示され、多くの刀剣ファンを魅了しました。

小狐丸にまつわる逸話

能「小鍛冶」のなかでは、宗近作の小狐丸がどのように誕生したかが語られています。平安京の一条天皇は、ある晩に「評判の刀工・三条宗近に刀を打たせよ」とのお告げを夢の中で受けます。宗近に刀を打つよう命じるべく、一条天皇は、宗近のもとへ手下の者を行かせました。

一条天皇の刀を打つという、栄誉ある命を受けた宗近ですが、彼は刀工として致命的な問題を一つ抱えていたのです。それはふさわしい力量をもった相方がいないことでした。刀づくりの世界では、刀工と相方が2人で向かい合って、赤く熱された鉄を槌で交互にカンカン打ち合い、刀を作っていきます。これを「相槌(あいづち)を打つ」といいます。一条天皇に収めるほど極上の刀を、任せられる力量を持った相方を、宗近は知りませんでした。

途方に暮れた宗近は、氏神の伏見稲荷明神に、刀づくりがうまくいくように神頼みをしに行きます。すると宗近は一人の童子に遭遇しました。不思議なことに童子は、宗近がなぜ神頼みに来たのかを知っていたのです。そして宗近に激励の言葉をかけます。宗近が「何者ですか」と尋ねるも、童子は「刀を打つ準備をせよ」と言い残し、稲荷山へと消えていきました。この体験を不思議に思いながらも、宗近は伏見稲荷明神に祈りをささげます。

すると狐と化した稲荷明神が、宗近の前に槌をもって現れたのです。その後、狐と化した稲荷明神は、刀づくりに取り掛かる宗近の相槌を打ちます。そのおかげで、一条天皇に収める、極上の刀が見事に完成しました。宗近はこの刀の表に自分の名を刻みました。裏には狐が作った刀として「小狐」と刻みます。

こうして名刀は小狐丸と呼ばれるようになりました。これが宗近の手掛けた名刀・小狐丸にまつわる逸話です。狐が刀づくりを手伝ったという不思議な逸話は、能の詞章「小鍛冶」として伝統芸能で表現され、いまも人気の演目となっています。

まとめ

小狐丸は平安時代に腕をふるった刀工・三条宗近が、一条天皇に収めた伝説の名刀です。神の化身になった狐と一緒に作ったとされることから、この名前で呼ばれるようになりました。現在、宗近作の小狐丸は現存が確認されておらず、宗近に関する史実もほとんど残されていません。刀とそれを手掛けた人物ともに非常に謎が多いのです。そんな謎多きところも踏まえて、小狐丸と宗近は、日本の伝統芸能・能の世界を通じて、今も多くの人を魅了しています。

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