日本刀、刀剣、という言葉を最近、よく耳にする方も多いのではないでしょうか。
漫画や刀剣を擬人化したゲームなど、日本のサブカルチャーにおいて外せない存在である日本刀を、博物館や奉納所まで出向いて鑑賞する人も増えてきているようです。
見どころやはり刀身。
じっくり見たことがない方でも、刀に波のような模様があるのをイメージ出来るのではないでしょうか。
この波模様のことを「刃文」といい、この模様にもたくさんの種類があります。
刀工の手によって生み出される無二の模様
刀の製造過程において、「土置き」という工程が存在します。
これは、刀身全体に土を盛る作業のことを指し、刀工はこの工程の段階で土の配合、盛る順番や厚さなどを調整して、イメージ通りの文様を目指します。
「土置き」が終わると「焼き入れ」を行います。
土を盛った刀身を火床に入れ、約800℃もの温度で加熱し、タイミングを見計らい、最適な温度になった瞬間に水につけ急冷するという工程です。
水に入れた瞬間、刀の強度が増すのと同時に「刃文」が作り出されます。
「土置き」において想定しているとはいえ、思い通りの模様を付けることは至難の業で、同じ模様は二度と再現出来ないとされています。
大きく2つの模様に分類されている
そのように出来る模様ですから、多種多様なタイプがあり、大きな区別としては、まっすぐに刃が入る「直刃(すぐは)」と波が打っているように見える「乱刃(みだれば)」の2つがあります。
刀の世界において「直刃に始まり直刃に終わる」という格言がある程、まさに原点にして頂点ともすべき直刃は、時代や流派を問わず多く見られます。
また、切れ味が良く、折れたり曲がったりしにくい為、特に戦での実戦用として重宝されました。
一方乱刃はその特性から多くの分類があり、鑑賞用となった今の時代において、多くの人を魅了しています。
刀匠のセンスや時代・流派などを色濃く反映していることが多いのも特徴です。
より細かく分類していくとさらに背景が見えてくる
直刃は一見変化に乏しいようにも思えるかもしれませんが、「マルテンサイト」と呼ばれる鉄の粒子によって出来る細やかな違いがあります。
荒目の粒子が主体で出来ていれば「沸出来(にえでき)」、肉眼での視認が難しく、パッと見は白い霞のように見える細かい粒子が主体で出来ていれば「匂出来(においでき)」と分類されます。
また、幅の広さによって「細直刃」「広直刃」「中直刃」にも分けることが出来ます。
乱刃は、乱れの文様に規則性がないものの中で、波の出方の小さいものを「小乱」、大きいものを「大乱」と呼びます。
そして規則性があるものの中でまた細かく分類されます。
もっとも一般的とされるのが、凹凸模様が繰り返し連なる「互の目(ぐのめ)」または「五の目」という模様です。
さらにその中で凹凸模様が複雑で変化に富むものを「互の目乱れ」といい、これもまた細かく分類されています。
文様の先が尖っている「尖り互の目」、波形が斜めに傾いている「片落ち(肩落ち)互の目」、尖り互の目の3本目が高く突き出している「三本杉」、珠玉を連ねたような「数珠刃」などがあります。
この「数珠刃」は、江戸の刀匠長曽根虎徹が生み出したもので、現在に至るまで高く評価されています。
植物の丁子に似ていることから名付けられた「丁子」ですが、初期のものは文様が小さく、「小丁子」と呼ばれ、古一文字派に多用されました。最盛期には文様も変化も大きくなり華やかさが増して、「拳丁子」「重花丁子」「蛙丁子」など多くの種類が生まれました。
末期には「逆子丁子」なども出現し、こちらは備前一文字派や備中青江派に多く使用されました。
波が大きめの「湾れ(のたれ)」は比較的広い時代で多用されました。
特に波が非常にゆったりとしているものを「大湾(おおのたれ)」と呼び、乱刃の中で最も直刃に近い文様とされています。
刃だけでなく平地の部分にまで焼きが及んだダイナミックなものもあり、これは「皆焼(ひたつら)」と呼ばれ、国宝の「へし切り長谷部」にもこの文様が見られます。
打ち寄せる大波をかたどった「濤瀾(とうらん)」と呼ばれる文様は、大阪の刀匠によって生み出され、装飾性に富んだ絵画的な乱刃と評されます。
このように乱刃は、時代の流行や地域の特性、刀匠の好みなどによって様々な数多くの文様が生み出され、分類されています。
日本刀には、刀匠の作刀工程「土置き」・「焼き入れ」によって生み出される「刃文」と呼ばれる文様があります。
刀身の刃と平地の境目が真っ直ぐな文様の刀を「直刃」といい、強度が高いという特徴により主に実戦において重宝されました。
一見違いが分かりにくいですが、鉄の粒子の違いによって細やかな変化が見受けられます。
一方刃と平地の境目が真っ直ぐでないものを「乱刃」といい、その文様の形状によって「互の目」や「丁子」、「湾れ」などといった多くの様式が確認されています。
このような多くの文様が生まれる要因として、時代背景や使用の目的、刀匠の思惑や流派の特色などが挙げられます。