日本人なら誰でもがテレビで見たり話を聞いたりしたことがあるだろう「日本刀」。
実用品としては使われなくなった現代でも、美術品として大きな価値を持っています。
しかし日本刀について、知っているようでよく知らない、という人は意外に多いのではないでしょうか。
日本刀の歴史や部位、製法などについてわかりやすくまとめてみます。
日本刀ってなに?
日本刀とは「日本独自の製法で作られた片刃で刀身が反っている刀剣」のことです。
古くから日本ではさかんに剣が作られてきましたが、青銅の両刃剣やまっすぐな形をした直刀が主流でした。
湾曲した反りのある刀が作られるようになるのは平安時代の末期ごろ。
「童子切」や「子狐丸」といった、いまも名を知られる名刀が作られました。
以来、武士が愛用する武器として日本刀は作られつづけ、使われつづけてきました。
作られた時代によって四つに分類される
日本刀はいつ打たれたかによって呼び名が違います。
現在、おもに四種類の呼ばれ方をしています。
◆まず、いちばん古いのが平安末期~桃山時代ごろまでの刀。
これを「古刀」と呼びます。
日本刀製造の黄金時代とされる鎌倉時代の刀もここに含まれます。
◆有名な刀匠「正宗」も鎌倉時代に活躍しました。
古刀の製法にはいまも謎のままの部分が多いのですが、現代でも作れないような非常に優れたものがあり、現代の刀匠にも古刀を再現することを一生のテーマにしている人がいます。
◆豊臣家が衰え江戸幕府が開かれるころから、江戸時代末期に差し掛かるころ(1781年前後)までに作られた刀を「新刀」と呼びます。
古刀との最大の違いは、中央集権によって良質の鉄がひろく流通するようになったこと。
それによって各地で作られる刀の質が揃い、武士たちの差し物として日本刀の需要は拡大しさかんに刀が作られます。
しかし元禄のころから、長年の平和ゆえ刀の需要はしだいに減ってゆき、刀鍛冶も衰退します。
新刀には戦国時代のなごりを残す豪壮な刀から江戸時代の反りの浅い刀まで、いろいろな作風の刀が含まれます。
◆黒船来航のころになると、殺伐とした世相のなか刀の需要はまた増えはじめます。
天明年間(1781~89)から、明治維新を経て廃刀令が出される1876年までの百年たらずのあいだ、日本刀は実用の武器としてさかんに作られました。
この短い時期に作られた刀を「新々刀」と呼びます。
じっさいに人を斬るために作られたものが多く、刀身が厚く実用的なのが特徴です。
◆そして廃刀令以降から現在までに作られた刀を「現代刀」と呼びます。
旧日本軍の軍人が所持したいわゆる「軍刀」から、現代に作られた鑑賞目的の刀まで、いろいろなタイプの刀が含まれます。
日本刀はこうやって作られている
日本刀の中核となる素材は「玉鋼」と呼ばれる鉄です。
「鋼」というのは精錬によって炭素の含有率を下げた鉄のことで、硬くて加工がきくので各種材料としてさかんに使われます。
なかでも玉鋼はたたらという設備を用いて砂鉄から作られる特殊な鋼で、非常に不純物が少なく、また酸素を多く含み繰り返し行われる加工に耐えることができる粘り強さを持っています。
刀匠たちはこの玉鋼の「硬くてしかも粘り強く、加工もしやすい」という美点を極限まで生かすために、鋼を打っては折り曲げ何重もの層を積み重ねることで強くするという製法を編み出しました。
刀鍛冶がトンテンカンテンとひたすら赤熱した鉄を打っているのはこの積層構造の鋼を作るためです。
さらに日本刀では、刃の部分を鍛えた玉鋼で作ると同時に、刀の芯の部分は軟らかいが折れにくい軟鉄で作るという工夫がされています。
刀の表面と芯を別の素材で作り貼り合わせるという画期的な工夫が、日本刀を刀身が非常に細いのに耐久性があるという優れた武器にしたのです。
日本刀の美しい形、そして反りは、この多層構造の発明によって実現されたものです。
日本刀の種類
〇日本刀の長さ
日本刀は長さによって三種類に分けられます。
刀、脇差、短刀です。
もっとも長いのが刀、刀に添えて持つ短めの刀が脇差、懐中にしまっておく非常用のごく短い刀が短刀です。
このあたりは時代劇などでもよく出てくる名称です。
〇腰にさげる方法
また、刀は「腰にさげる方法」によって二種類に分かれます。
太刀(たち)と打刀(うちがたな)です。
太刀は刃を下にして紐で腰に下げるもので、古刀と呼ばれる古い刀はだいたいこの形です。
反りが強くて長めなのが特徴です。
たいして打刀は刃を上に向けた形で帯に差すものです。
新刀、新々刀、現代刀はほとんどがこの打刀です。
日本刀の部位の呼び方
〇「切っ先」
日本刀の刀身を刃先から見ていくと、まず刀の先っぽのところを「切っ先」といいます。
ものが斬れる尖ったほうを「刃」「刃先」、反対側の斬れないほうを「峰」または「棟」と呼びます。
刃先と峰の中間にある稜線になっている部分を「鎬(しのぎ)」といいます。
しのぎを削る、というのは、本来の戦いでは削れないはずの鎬すら削れるほど激しく斬り合う、という意味です。
〇「刃文」
刃先には焼入れのときできる模様があるのが常で、これを「刃文」と呼びます。
刃文は美術品としての日本刀の価値を決めるものとされています。
手元のほうに行くと、刀身が終わって手に持つための部分がありますが、これを「茎(なかご)」といいます。
茎には刀身を柄に止めるための穴が空いていて、目釘穴と呼びます。
そして茎には刀の製作者名が彫ってあることが多く、これを銘と呼びます。
〇刀身は「目釘」という釘によって持ち手、つまり「柄」と連結
刀身は「目釘」という釘によって持ち手、つまり「柄」と連結されます。
目釘のなかでも中央の目立つ位置にあるものを「目貫」といい、のちに釘ではなく柄の装飾品になってゆきました。
目貫通り、という言葉の語源です。
また、柄の上から巻く滑り止めの紐を「柄巻き」と呼びます。
〇「切羽」
刀身と柄の間には「鍔」があり、鍔と刀をつなぐ金具がついています。
この金具を「切羽(せっぱ)」といい、せっぱつまる、という言葉の語源です。
この切羽が壊れると刀が抜けなくなる、つまりどうしようもなくなることから来ています。
〇「鞘」
最後に刀を収めておく外装が「鞘」です。
鞘の先っぽは「こじり」、鍔と接する抜き口の部分を「鯉口(こいぐち)」といいます。
鯉口を切る、というのは刀を抜き始めること、つまり戦意を示すことです。
このときチャキッ、という音がします。
時代劇でこの音を聞いたことがある人も多いでしょう。
基礎知識を持つと日本刀を見るのが楽しくなる
ごく簡単な基礎知識ですが、基本を知っていると日本刀を見るのは格段に楽しくなります。
ぜひ、博物館などでじっさいに日本刀を見て、その美しさと凄みを実感してみてください。