刀というと侍が腰に備えているような太刀を想像する人が多いかもしれませんが、その他にもいくつもの種類があります。そしてそれらは古くから人々の生活に馴染んでいて、さまざまな目的に使用されてきました。その中のひとつが守り刀で、現代でも主に冠婚葬祭に関係するものです。
人生の行事のいろいろなところで使用されている
刀には武器としての用途と共に、ものを断ち切るというイメージが昔から付いていました。守り刀とはそのようなイメージから縁起を期待して、人生のさまざまな場面で使われる刀のことで、基本的に短刀が用いられました。
あまり力のない女性や老人でもその縁起にあやかることや、使いやすさの優先がその理由だと考えられます。刀ということで元々親しみが深かったうえに、日本では皇族が必ず自身の守り刀を保有していて、それに関係する儀式もあるため広く知られています。
そして考え方で多いのは悪いものから身を守るための道具として刀を使うことで、人が亡くなった際に持たせる場合はこの理由が多いです。昔から憑きもののイメージとしては猫が多く使われてきましたが、その猫がキラキラと光を反射するものを嫌うことから、光沢のある刀が使用されるという考え方もあります。それと同時に、魂を現世から断ち切る目的が伴うことも少なくありません。葬儀の際に守り刀を用いるかどうかは宗派によって異なるため、必要ない場合もあります。
現代では短刀であっても15cm以上の長さであれば法律に抵触してしまうので、本物を使用することはあまりありません。その代わりに切る機能が備わっていない模造刀や、木でできた短刀が用いられます。その他に五月人形のセットに含まれている太刀も、守り刀のひとつです。太刀ということで男の子限定の使い道ですが、目的は子どもを悪いものから守ることです。
神前式では基本セットの中に含まれている
また西洋風の結婚式が主流になりつつある現代では見かけることが比較的少ないですが、神前式でも守り刀は使用されます。特に白無垢や打掛では、化粧道具入れの筥迫や帯締めなど必須とされる基本の道具5点の中に、懐刀という名前で含まれています。
神前式での花嫁を見る機会があれば、左胸に着目してみると良いでしょう。そこに差さっている布でできた袋が懐刀で、白無垢であれば同じように白、打掛だと模様が入っていることもあります。
ただ花嫁衣装として使用する場合でも長さによって法律に抵触する点は変わらないので、袋だけだったり、中身として形を整える固い素材を使っただけのものが多いです。懐刀はあくまでも衣装の一部で、袋を開けることはまだしも、実際に使用することはありません。
そのため演出ができれば良いという場合はそれに倣っていても支障はないでしょう。もちろん許可さえ得ていれば本物の刀を使えるので、すでに認められている刀を受け継ぐ形で用いるのは全く問題ありません。その他にも申請をしたうえで新しく作成するという選択肢もあります。
武家の考え方が元になっている
結婚式の花嫁に対して、武器にもなる刀を持たせるのは物騒だと思う人もいるかもしれません。しかし元を辿っていけばしっかりとした理由があり、日本がまだ武家社会だったころまでさかのぼります。
男性が腰に刀を差していた時代から、女性であっても懐に刀を忍ばせて持ち歩く場合が多かったです。それは自分の身は自分で守るという考え方から来ていて、武家であればたしなみのひとつでもありました。そのため女性が生まれたときにすでに守り刀を与えられることもあり、形こそ違っても刀は決して男性だけのものではありませんでした。
また、その際に悪いものを断ち切るという願掛けもおこなわれたため、それが現代にも通じている可能性は高いです。その当時の結婚式といえば女性が男性の家に嫁ぐのが基本で、さらに結婚した後は何があっても、他の男性とは関係を持たないという考え方がありました。そしてもし、その何かが起こった際には、決着をつけるための道具として守り刀を使用したわけです。
神前式自体は武家社会が終わった後に確立されたものなので、直接的には繋がっていません。しかしそれ以外の理由がないため、関係していると考えて問題ないでしょう。あまり縁起の良いものではないかもしれませんが、それだけ結婚に対する意思が強いと捉えることもできるはずです。
さらにポジティブな意味が含まれていないのに、現代の結婚式で用いられるはずがありません。したがっておめでたい印象を持つものとして、花嫁道具の仲間に含まれています。
刀という道具はすでに実用的ではなく、現代ではフィクションや歴史上の立ち位置になりがちです。しかし文化として見ると、至るところで存在を確認できます。そのひとつが守り刀で、実際におめでたい結婚式の場面で目にすることができる機会はあります。
その他にも守り刀に関する行事は数多くあるので、興味を持った場合は意識して目を向けてみると良いでしょう。いずれも誕生してから長い期間が経過し、分厚い歴史を伴っているもののはずです。