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公開日:2022/06/01  

「水へし」と「玉へし」とは?強度に違いは出る?


日本刀は非常に奥が深いものです。作刀の工程も多く、どれも繊細で集中力を要する作業になります。作業の1つひとつが、シンプルな形からは想像できないほど複雑であり、刀工が魂を込めて作っているのです。今回は日本刀を作る過程の1つである「水へし」「玉へし」について詳しく解説していくので、ぜひご覧ください。

玉へし・水へしは作刀の工程のひとつ

玉へしも水へしも作刀に欠かせない作業のひとつです。日本刀を作るには、細かい作業を数多くこなしていく必要があります。まずは、材料である玉鋼を用意しなくてはいけません。玉鋼を使う量の目安は、日本刀の刀身に対して約10倍だと言われています。つまり、1kgの日本刀を作るには、10kgの玉鋼を使うということです。

また、玉鋼は直接採掘できるものではなく、山や鉱山から砂鉄を集め木炭を使って低温状態で還元していき、生成されるものです。これによって純度の高い玉鋼が完成し、これをたたら焼き、またはたたら製鉄と言います。無事玉鋼が用意できたら、次は水へしという工程に移ります。玉鋼は含有している炭素の量によって硬度が異なります。炭素量が多ければ玉鋼は硬くなり、反対に少なければ玉鋼は柔らかくなる傾向があるのです。

そして、玉鋼は粒状の結晶がそれぞれ結合しているため、いきなり高温の状態で叩くと砕けてしまいます。そこで、まず玉鋼を低温で熱した後に叩き、薄くのばしていくのです。玉鋼を少しずつ薄くのばしていき、5㎜前後に達したらそのまま冷水に入れて急激に冷やします。この急冷によって炭素量が多い部分は自然に砕け、砕けなかった部分は自分で叩いて割っていきます。日本刀の刀身となる部分は、硬い玉鋼を使うため、ここで割れた鋼と割れなかった鋼を選別するということです。

■玉へしを解説

玉へしは玉鋼を赤くなるまで熱し、1㎝の薄さまで潰していきます。そして、表面をきれいに整えてから焼きを入れていく工程です。この焼き入れとは、水へしでも説明したとおり、高温で熱した玉鋼を水、または油に入れて急冷することを意味しています。焼き入れ効果と呼ばれることもあります。

人が人に対して厳しい課題や制裁を与えることを「焼きを入れる」と表現することがありますが、これは刀の焼き入れが語源になっています。高温加熱後に急速冷却するという、あえて過酷な状況を与えて刀の強度を高め、ただの玉鋼が切れ味の鋭い刀へ生まれ変わっていくことから、そう表現するようになりました。

■その後の工程

玉鋼を鍛錬して強度を高め、炭素量を統一化します。そして刃の部分に該当する皮鉄(かわがね)と刀の中心部分に該当する心鉄(しんがね)を合わせていきます。これが作り込みという工程です。そして刀の形になるよう棒状に整えていき、刀身に年度に木炭や砥石の粉末を混ぜた焼き刃土とよばれるものを塗布していきます。

焼き刃土が完全に乾いたら、刀身を再び高温で熱し、急冷する焼き入れを行います。刀身と柄を繋げる部分は、丁寧にやすり掛けしてきっちり掴部分に収めることが重要です。あとは日本刀に彫刻を施し、刀身を研いだら無事完成です。細かい作業はほかにもありますが、おおよそこのような流れで刀が作られています。

玉へしと水へしに違いはあるのか

玉へしと水へしは言葉こそ違いますが、意味していることは同じになります。どちらも刀を作るうえで玉鋼を薄くのばし、高温から急冷して薄い板を作る作業の1つとして扱われています。地方によって表現が異なる場合もありますが、人によってはどちらも通じたり、どちらかしか使わなかったりするなど、地域によって明確に分けられているというものでもありません。さらに、玉へしや水へしは時代をさかのぼると鋼つぶし、玉つぶしという表現をされていたことも。全てまとめて同義語と考えて差し支えないでしょう。

意味が同じだから品質も同じ?

先ほども述べたとおり、玉へしも水へしも意味するものは同じです。表現の違いしかないため、品質にも差は生まれません。もともと、へしとは潰したものを意味する単語であり、玉鋼を潰すことからこのような名前がついたと考えられています。一般的には水へしという言葉の方が浸透している傾向があり、刀剣関係の書籍でも水へしが使われていることが多いです。一方、玉へしとしか言わない刀工や玉へしと表現している書籍もあるため、どちらかが合っているというものでもありません。昔の言い方が変わっていくうちに生まれた単語であるという認識になっています。

 

水へしと玉へしという単語について解説しました。名称は異なるものの意味は同じであり、どちらも刀を作るうえで、材料である玉鋼を薄くのばし小板を作る工程を指します。人によっては、どちらかしか使わないケースはあるものの、どちらも正しい日本語です。日本刀はさまざまな工程を踏んで、1本の日本刀が完成します。刀工や刀鍛冶として活躍できるのはほんの一握りですので、興味がある方は、覚悟を持って弟子入りすることをおすすめします。

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