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公開日:2025/11/25  

鎌倉時代後期作とされる短刀「銘 行光」とは?

短刀 銘 行光(ゆきみつ)

今回は、相州行光そうしゅう ゆきみつ)の代表的な作品と言われる短刀について解説いたします。

概要

短刀「銘 行光ゆきみつ)」は、鎌倉時代後期に活躍した刀工・相州行光が鍛えた国宝の刀剣で、現在は東京都台東区の東京国立博物館に所蔵されています。もとは加賀藩前田家に伝来した名品で、相州行光在銘作の中でも完成度と保存状態が傑出していることから、日本刀研究の基準作として頻繁に取り上げられてきました。種別は短刀で、工芸品としての品格と、武器としての実用性の双方を備え、相州伝の成立を示す重要な資料でもあります。昭和6年に重要文化財、昭和29年に国宝へと格上げされており、日本刀史の流れの中で「鎌倉期相州鍛冶の到達点」を示す象徴的な刀剣と評価されています。​

刀身の特徴

この短刀は刃長26.4センチ、元幅2.3センチ、茎長10.7センチという比較的コンパクトな寸法で、武家が身辺用として帯びる実戦的な日本刀の典型的サイズを示しています。造り込みは、鎌倉期短刀を代表する平造り三つ棟を備え、さらに内反りが付く独特の姿で、直線的な緊張感と柔らかな曲線美が同居したシルエットを見せます。地鉄は板目肌がよく詰み、地沸が微塵に厚く付いて地景が盛んに現れ、相州物らしい精悍で立体感のある肌合いを示します。刃文は新藤五国光に通じる直調子を基調としつつ、正宗を思わせる変化に富んだ乱れを備え、同じ刀身の中に二つの流れが巧みに融合することで、刀剣愛好家にとって見所の尽きない日本刀となっています。​​

作刀の歴史

相州行光は通称・藤三郎行光と伝えられ、相模国鎌倉周辺で活動した刀工で、「相州伝」の創始者とされる新藤五国光の門人に位置付けられます。また、のちに世界的に名高い名工となる五郎入道正宗の父とも伝承されており、この系譜の中で「国光と正宗をつなぐ世代」の中心に立つ刀鍛冶と考えられています。行光の在銘作は短刀がわずかに残るのみで、太刀は知られておらず、この一点が作風研究において決定的な手掛かりとなってきました。鎌倉時代後期は、実戦一辺倒から美術性も重視する流れへと刀剣文化が変化した時期であり、本作は強靭さと鋭利さ、そして細部の意匠美を兼ね備えた日本刀として、その時代精神を凝縮したような作品といえます。​​

行光にまつわる伝説や伝承

相州行光をめぐっては、師弟関係や血縁関係に多くの伝承が残されており、刀剣史の中でも象徴的な存在です。新藤五国光の高弟として技術を受け継ぎつつ、自身は正宗の父とされることで、「相州伝の源流から正宗への橋渡し」を担った人物という物語性豊かな位置づけが語られてきました。短刀「銘 行光」についても、太刀在銘が皆無という事情から「行光真筆を証する数少ない証拠」として尊重され、所持した大名家・前田家の中で秘蔵の刀剣として伝来したことが、その名声と神秘性をいっそう高めました。現在では、史料批判に基づく冷静な評価が進みつつも、国光・行光・正宗へと連なる相州鍛冶のドラマを体現する日本刀として、多くの鑑賞者に強い印象を与え続けています。​​

まとめ

短刀「銘 行光」は、鎌倉後期相州鍛冶の精華を示す国宝刀剣として、姿・地鉄・刃文のすべてにおいて高い完成度を備えています。内反りの平造り三つ棟という個性的なスタイルに、緻密に詰んだ板目肌と地沸のきらめき、国光と正宗双方の系譜を感じさせる刃文が重なり、日本刀の造形美と機能美が高度に融合した一本です。また、新藤五国光の門人であり、正宗の父とも伝えられる相州行光の代表作として、作風研究や系譜解明の鍵を握る、学術的価値の極めて高い刀剣でもあります。 東京国立博物館では、展示機会にめぐり合えれば、鎌倉期相州伝の息吹を、実物の地鉄の肌合いや刃中の働きから直接感じ取ることができ、日本刀に関心を持つ方にとって必見の名品といえるでしょう。

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