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公開日:2020/12/15  

日本刀が美しいと感じる理由


日本刀は我が国がほこる価値の高い骨とう品です。世界中にはさまざまな武器がありますがとくにほかの武器にない魅力、美しさがあります。ただの芸術作品とは異なり「人を斬る道具」というミステリアスさも手伝い、見る人の心を奮う魅力があります。これまで人に美しいと感じさせるには、どのような理由があるのでしょう。

単なる武器ではなく特別な価値があった

刀は日本人にとってただの武器にとどまらない特別な存在だったことが、その価値を高める理由に挙げられます。そもそも武士以外は武装することは許されておらず、短刀や脇差のような小型の刀ではない立派な刀は、武士しか持つことが許されていませんでした。

安土桃山時代からは、武士が身分を証明するために日本刀を持ち、立派な刀を持つことは自身の身分や社会的地位を証明するシンボルのようなものになっていました。刀を持つことで庶民とは異なる地位を自覚し、武士が「武士の魂」という高い精神性にこだわるようになったのです。武士は自身の強さや地位に相応しい刀を持つことに強いこだわりを持つようになりました。

また、悪霊から身を守るお守りのような存在としても肌身離さず携帯されるようになり、武士にとっては自身の体の一部のように大切な存在にもなっていたのです。それに伴い刀を作る刀匠たちもこぞって、より重宝されるすぐれた刀を作ることに注力するようになりました。

もともと刀は喧嘩や戦に使う道具として普及していましたが、徐々にその観念は薄れ、江戸時代に入ると徐々に武器から鑑賞するために持つ美術品に移行し始めました。明治9年になると政府から廃刀令が出され、刀を持つことが禁止されます。

武士の魂を傷つけられた武士たちが起こした反乱は有名な西南戦争にまで発展したのですから、どれだけ日本刀が大きな存在だったかは現代人の私たちにもはかり知れないところです。明治時代に士族は消失しましたが、その精神性は後世に受け継がれることとなります。人を斬る道具としてではなく飾ったり眺めたりすることで、先人に思いを通わせ、その時間を楽しむことが日本刀の美しさを引き立てているのです。

刃にみられる特有の美しさが鑑賞できる

現代における日本刀には、刀剣全体のフォルム、そして刃の「地鉄(じがね)」「刃文」を静的に観賞する楽しみがあります。まず、刀の美しさのひとつには、刀の洗練された機能美が挙げられます。刃は鋼を焼き入れして作られるので、金属の素材そのものの質感や色などを観賞する楽しみがありますし、鋼を鍛錬することで作りあげられる地鉄や刀紋のあらわれ具合も大きな特徴です。

一般に海外の武器は派手な装飾が好まれますが、日本の刀剣は無駄な装飾を省いたものが多くなっています。素材そのものの美しさに価値を見いだし、装飾に頼らず素材そのものを鍛錬して機能美を生み出しているところが海外の武器と大きく異なります。

そもそも刀は切れ味を追求して作られる武器でしたが、鋭い切れ味を重視して研磨を繰り返すことでおのずと刃に機能美が備わったといって過言ではありません。鋼には切れ味を下げる不純物が含まれていますが、鍛錬を繰り返すことで不純物がどんどん出ていき切れ味を極めることができます。

その過程で刃に地鉄と呼ばれる特有の模様が生まれ、研ぎ澄まされた刃は角度を変えながらじっくり鑑賞すると杢目肌、板目肌などの美しい肌目が楽しめるようになるのです。たとえば、刀に対して縦に目が入るのは柾目肌、板目より複雑な模様が入るのは木目肌、また肌目がとらえられない鏡肌など、さまざまな肌目が存在しています。じっくり見てわかる細かい模様ですが、海外の刀剣にはない静櫃な美がそこにあるのです。

また、刃には波紋と呼ばれる焼き入れによって生まれる波状の模様があり、刀匠の系統や技量によってあらわれ方の異なる刃紋をじっくり観賞するのも乙な楽しみ方です。大きく分けると、「沸(にえ)」と呼ばれる、粒子が肉眼で確認できてキラキラして見えるものと、「匂(におい)」と呼ばれ粒子がる霧や霞のように見えるものとがあります。

刃紋が真っすぐな「直刃」、細かい乱れ模様のある「小乱れ」、曲線がうねる「のたれ」など模様の種類も実に多彩です。1000年以上経っても折れたり曲がったりせず美しさを保っている物もたくさんあります。それだけ丁寧に作られ優れた機能を持っているのだから美しくて当然ともいえるのでしょう。

刀身具の繊細な装飾を鑑賞する楽しみもある

美しさを楽しむポイントは、刃だけでなく刀身具の装飾にもあります。刀を納める刀身具が、たくさんのパーツで構成され、それぞれの形状や繊細な装飾を比較しながら鑑賞するのも面白いものです。たとえば、刀身具には刀の刃をおさめて保護する鞘(さや)、刀を持つ場所である柄(つか)、刀身と柄の境目につける鍔(つば)や刀身の根元に付けるはばきなどがあります。

さやは機能性だけでなく美しさが求められ、漆を何度も塗り重ねて強度とつやを出す、金銅や銀などで家紋や動物、植物などの美しい装飾をほどこすといった工程がとられています。柄は木に白鮫皮を巻き、組糸で菱の模様に巻く方法で作られてきました。

柄を見ると菱型の模様が整然と並び、上品な美しさが感じられます。また、つばは丸型、角型、葵型などさまざまな形が存在し、凝った装飾のほどこされているものが多いので、デザインの美しさが楽しめます。作り手のこだわりが感じられるので、細部にわたってじっくり鑑賞するとよいでしょう。

 

日本刀が美しいと感じられる理由は、洗練の美と機能美がすばらしいこと、単なる武器にとどまらず武士の魂を証明するものだったことが挙げられます。海外の武器とは異なり、余計な装飾を省いて素材の機能性に重点を置いて作られているところが大きな特徴です。

機能を追求して刀を鍛錬したことで、鋭い切れ味と特有の美しさが生まれました。現在では、戦う道具としてではなく芸術作品として静的に鑑賞するために多くの人がコレクションしたり博物館に足を運んだりしています。

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