織田信長に仕えた人物である細川藤孝の愛刀、現在は日本国宝でもある「古今伝授の太刀」は、刀工・行平(ゆきひら)によって作られた太刀です。
概要
「古今伝授の太刀」は、鎌倉時代初期に豊後国(現在の大分県周辺)で造られたとされる名品で、国宝「太刀 銘豊後国行平作」の号でも知られています。古今伝授行平(こきんでんじゅゆきひら)とも呼ばれています。現在、永青文庫(東京都文京区)所蔵で、革包太刀拵(こしらえ)が付属しており、刀剣としての歴史的・芸術的価値を併せ持っています。この太刀は、単なる武具にとどまらず、和歌の秘伝「古今伝授」が授けられた際に贈られたことからその名が定まり、文化的背景も色濃く反映された逸品です。
作風
本太刀は刃長約80cm、反り2.8cmの優雅な太刀姿で、鎬造、庵棟(いおりむね)、鋒(きっさき)が小ぶりという鎌倉期の典型的な作風を示します。地鉄は潤みを帯びた板目肌で、地沸が厚く冴えた、鍛えの良さが特徴です。表裏には棒樋(ぼうひ)が流れ、梵字や倶利伽羅、神像など宗教的彫刻が刻まれており、刀剣としての実用性だけでなく、宗教美や装飾性を高めています。
歴史
この太刀は、戦国期の文化人であり歌人でもあった細川藤孝(幽斎)に伝わり、1600年の関ヶ原の戦いで籠城した田辺城に象徴的縁がありました。歌の秘伝「古今伝授」を烏丸光広に授ける礼として贈られ、「古今伝授の太刀」と呼ばれるようになります。その後、烏丸家・中山侯爵家・細川護立侯爵家を経て永青文庫へ収蔵され、1934年(昭和9年)に旧国宝、1951年(昭和26年)に新国宝に指定されました。このように、刀剣としてだけでなく、政治・文化の歴史と深く結びついています。
まとめ
「古今伝授の太刀」は、鎌倉時代の刀工・行平による鍛刀技術の高さと、戦国~江戸期を通じた文化史的背景が融合した稀有な日本刀であり、刀剣愛好家のみならず文化史研究者にも高く評価されています。地鉄や刃文、彫刻など作風の面白さ、贈り物としての意味合い、所有の遍歴などを通じて、武具としての機能を超えた文化的深みを感じさせます。国宝として保護されるにふさわしいこの太刀は、日本刀としての美しさと刀剣文化の象徴として、永青文庫で輝きを放ち続けています。