日本刀を正しい状態で保管するためになくてはならないものが鞘です。刀身にしっかりとはめ込んでおくことで、安全に刀を保管することができます。鞘は刀と同様に日本でもさまざまな種類のものが作られてきましたが、それぞれ使用する刀の形状や大きさによって、異なった特徴を持っています。
木材だけを使用して作られている白鞘
日本刀に使用されている鞘は使用している材質によっても種類を分けることができます。日本でも昔から材料に使用されてきたのが木材です。木材だけを使用して作られているものは白鞘と呼ばれていて、このタイプのものは、木によって湿度が調整されるので、刀が錆びにくいという特徴を持っています。
使用する木材によって完成されたものの品質も異なりますが、刀を保護するうえで最も適しているのが、適度な硬さをもっているものです。ただ、あまり硬すぎるとかえって刀身を傷つけてしまう場合があるので、適度に柔軟性のある木材のほうが、品質の高いものを作ることができます。
日本刀の鞘に多く使用されているのが朴の木で、他の種類の木材と比較しても使用しやすいメリットが多いために、昔から多くの刀に使用されてきました。朴の木は全国各地の山林に自生している木なので、どこでも簡単に入手できたことも、材料に使用されてきた理由です。
成長すると非常に大きくなる木で、大きいものは樹高が30メートル程度まで成長するものもあります。樹皮は白っぽい灰色で、裂け目ができにくく、きめが細かいことも材料に使用しやすい特徴です。適度な硬さがあり表面に漆が塗りやすいことも、多くの刀に使われてきた理由でした。
鮫の皮を使用して作られている鮫鞘
日本刀に使用されている鞘の中でも、高級な刀に多く使用されているのが鮫鞘です。木材の外側に鮫の皮を巻いているのが特徴で、木材だけのものよりも強度があります。強さを増すだけならば、金属を使用することでも可能ですが、金属を材料にすると刀全体が重くなってしまい、持ち歩く際にも不便だったので、鮫の皮が使用されるようになりました。
鮫の皮は丈夫で破れにくいので、木材の外側に巻いて刀を保護するためにもぴったりの材料でした。重さがないことも使用しやすい特徴で、持ち運びやすさと耐久性の両方を持っている材料として、好んで使われています。
鮫の皮は上から漆を塗ることもできるために、刀の装飾をする目的でも使用しやすい素材でした。赤や黒などの漆を塗って仕上げをすることで、刀により高級感を与えることができます。漆を塗った後に表面を研ぐことで、装飾の模様をくっきりさせる方法もよくおこなわれていて、独特の雰囲気を持ったものになります。
日本では中世のころから一般にも広まっていった歴史があり、15世紀ごろにはすでに多くの刀に使用されていました。そのため、現在でも残っている名刀と呼ばれる刀の中にも、このタイプのものが使用されているものが多いです。
時代や地域によって独自の名前を持っている鞘
鞘は作られた場所によっても独自の名称で呼ばれることがあります。今の熊本県にあたる肥後国も、江戸時代は独自の刀剣を生産する地域として知られていましたが、この地域で作られたものは、肥後拵という名前で呼ばれていました。肥後拵は、他の地域で作られたものより見た目の派手さはないものの、味のあるデザインを持っているのが特徴です。
特定の年代に作られたものも、特定の名前で呼ばれることがありますが、その中でも特に有名なのが天正拵です。天正拵は天正時代に作られたもので、戦国時代の後半にあたる時代です。この時代に作られたものは、他の時代にはあまり見られない特徴があることから、高値で取引されているもの多くあります。
装飾の方法によっても種類を分けることができ、滑りにくく塗られているのが石目塗りという種類のものです。同じように滑りにくいように塗られたものには、叩き塗りがあります。表面を平らにして塗られたものは呂塗りと呼ばれていて、使用する目的に合わせて塗り方が選ばれています。
金粉を表面に散らしたものは金粉ちらしと呼ばれていて、見た目が非常に豪華なのが特徴です。同じような方法で作られたものには青貝ちらしというタイプもあります。
日本刀の鞘は、刀を保護するために必要なものですが、刀と同じように多くの種類があります。刀の特徴に合わせてデザインされることも多いですが、装飾の多い刀によく使用されているのが鮫の皮を使用したタイプのものです。木材の外側に鮫の皮を巻きつけることで、木材だけでは十分ではない強度を補うことができます。
重さがないことも鮫の皮が好んで使用されている理由で、刀を持ち歩きやすい利点がありました。装飾がしやすいこともこのタイプのものが人気のある理由で、漆を表面に塗れば、高級感のある仕上がりになります。
木だけを使用して作られているタイプのものもありますが、このタイプのものは、木が湿気を吸い取ってくれるので、刀身が錆びにくくなっています。