日本刀を調べていると、実際に美術館などで閲覧した際に「銘」という文字を目にしたことはないでしょうか?実は日本刀にはその刀を打った刀匠によって名付けられた名前があり、それを銘と呼びます。銘はその日本刀の歴史や価値を測る貴重な情報です。今回は日本刀を語る上で欠かせない銘について解説していきます。
銘は刀本来の名前
銘は作者である刀匠が刻むので、その刀本来の名前だといわれます。似たものに「号」という名がありますが、こちらはその刀の逸話から名付けられたニックネームのようなものです。銘には作者の名前や作成年、所有者の名前などが付けられます。
たとえば日本を代表する天下五剣の一つで、国宝にも指定されている刀である「童子切安綱(どうじぎりやすつな)」の場合、作者の名である「安綱」が銘にあたります。一方で「酒呑童子(しゅてんどうじ)」という鬼をこの刀で切った逸話から「童子切」という号が名付けられました。このように号と銘がくっついた形で呼ばれているケースも多いです。
銘の種類
日本刀の銘には刻まれている内容によってさまざまな呼び方が存在します。ここではそれぞれの銘の種類について紹介します。
■作者銘
「作者銘」はその名前の通り、刀を打った刀工の名前が刻まれた銘を指します。前述した安綱も作者銘にあたります。最も一般的な銘なので作者銘が入っている日本刀は多いです。また銘は筆などで書いている訳ではなく、実際に刀に彫るので技量が必要になります。そのため刀工によって差が出やすく、鑑定において重要なポイントになりました。
■紀年銘
「紀年銘(きねんめい)」はその刀がいつ作られたのかを示す銘です。裏側に入れる事が多かったことから「裏銘」とも呼ばれています。年号と共に「二月日」や「八月日」と記されていることが多いですが、これは2月と8月は刀の焼き入れに適している、とされているからです。そのため実際とは月日が異なる場合でも、慣習に従って二月日・八月日と入れることもありました。
■所持銘
「所持銘」は作者銘と異なり、その刀を所有していた者の名前が刻まれた銘です。「新刀の祖」として知られる名工「堀川国広」が作刀したものなどにしばしば見受けられます。刀は歴史の中でさまざまな人物に渡ることも多いので、後から手にした者の名が刻まれることもありました。所持銘は、室町期と江戸末期の日本刀に多く見受けられます。
■注文銘
「注文銘」は刀工に作成を発注された刀に刻まれる銘です。この際にどのように入れるかを注文者が決めます。注文銘は作者銘と共に入れることが一般的でした。注文銘が入っているということは、大量生産された刀ではない、ということなので、一種のステータスでもあります。
■受領銘
「受領銘(ずりょうめい)」は刀工の国司名を、自身の名前の上に記した銘です。国司とは朝廷や幕府から授かった刀工の肩書きのようなもので、守(かみ)、介(すけ)、掾(じょう)、目(さかん)などがあります。
■試し銘
「試し銘」はその刀の評価する際に行われる試し切りの結果などが刻まれた銘になります。別名「裁断銘(さいだんめい)」とも呼ばれます。試し銘はその刀がどれほど優れているかを示す情報になるので、愛刀家の間では重要視されてきました。またこの銘は戦争が減り、世の中が安定してきた江戸時代初期に作刀された刀に多く見受けられます。
■朱銘
「朱銘(しゅめい)」は朱漆で入れた銘のことを指します。本来銘とは刀身に刻むものなのに対し、朱銘は刀を傷つけることはありません。主に無銘の刀を鑑定した際に鑑定者の名が記されました。
すべての刀に銘や号がつけられているわけではない
ここまで銘について解説してきましたが、実はすべての刀に銘や号が記されている訳ではありません。号は逸話などから付けられるニックネームのようなものなので、刀によっては号が付けられていないことはよくあります。
しかし名刀とされているものの中には「無銘(銘が記されていない刀)」も存在します。無銘と聞くとなんだか評価の低い刀のように思えますが、理由があって無銘になっている刀も多くあります。
■奉納無銘
「奉納無銘(ほうのうむめい)」は神社などに奉納されることも目的とした刀であり、その際には無銘にするのが慣例でした。
■献上無銘
「献上無銘」はその名の通り、誰かに献上するために作刀された刀になります。献上とは身分の高い者に贈られるということなので、身を謹んで無銘とされてきました。
■影打無銘
「影打無銘(かげうちむめい)」は刀工が作刀依頼を受けた際に数本の刀を作り、その中から依頼者が希望の一振りを選ぶという工程を踏んだ際に、選ばれなかった残りの刀を指します。残った刀に他の銘を入れることは依頼者に対して失礼にあたる、とされていたために無銘のままにされています。
今回は日本刀の銘について解説しました。銘は種類が多いですが、作者や作成年、作刀された経緯などが分かる貴重な情報になります。銘についての知識を備えておけば、日本刀を鑑賞するのが一段と楽しくなるはずです。ぜひ参考にしてみてください。