日本刀は日本独自の製法で作られてきた刀を指します。武器としての性能もさることながら、その機能美は見る人を魅了し続けてきました。日本刀の中には御物として納められているものも存在するなど、その美術的な価値は高く評価されています。今回はそのような御物として所蔵されている日本刀について紹介します。
そもそも御物とは?
御物という言葉はあまり聞き馴染みがないかもしれません。御物とは皇室が所有している美術品のことで、宮内庁が管理を行っています。戦前までは現在よりも多くの品々が御物とされていましたが、戦後は皇室の財産は原則国有財産となります。しかし実際には皇室伝来の美術品の多くが当時の宮内府が管理してきました。昭和天皇が崩御された後は相続により、御物の多くが国庫に物納され国有財産となります。
ただし皇室に所縁の深い品々などは国庫への帰属を免れ、現在でも御物と呼ばれています。この中には絵画、書跡などと共に刀剣も含まれています。とくに刀剣に関しては明治天皇が無類の刀剣愛好家として知られており、旧大名家から数多の刀剣が献上されたことから、日本刀も多く御物として所有されています。
御物のなかでも有名な日本刀
御物がどのようなものか分かったところで、ここからは御物として皇室が所有している日本刀についていくつか紹介していきます。
■鬼丸国綱
鬼丸国綱(おにまるくにつな)は天下五剣の一つに数えられる名刀です。手がけたのは鎌倉時代に活躍した粟田口国綱(あわたぐちくにつな)という刀鍛冶で、当時の鎌倉幕府執権だった北条時頼のために作刀したといわれています。その後も織田信長や豊臣秀吉といった時代の英傑たちの手に渡り、皇室御物となりました。
鬼丸国綱という名前の由来ですが、北条時政の逸話からです。北条時政が子どもの頃毎晩夢の中で鬼に苦しめられていました。ある日夢の中で翁が現れ、「自分は太刀国綱だ。しかし汚れた人の手に握られたため錆びてしまい鞘から抜け出せない、妖怪を退治するために、清浄な者の手で刀身の錆を拭ってほしい」といいました。
そこで翁のいうとおり、錆を拭き去ったところ、太刀が近くにあった火鉢の足に倒れかかり、火鉢の足を切りました。見るとそれは銀で作られた鬼の形をしており、それ以来夢の中で子鬼に苦しめられることがなくなったといいます。この逸話から「鬼丸」と名付けられました。
■小烏丸
小烏丸(こがらすまる)は日本刀の祖とされる伝説の刀工「天国(あまくに)」が打った名刀です。小烏丸は「鋒両刃造」(きっさきもろはづくり)という造りとなっており、刀身の先端部分を指す)が両刃という独特な造込みをしています。代表作が小烏丸であることから、この造込みは小烏造(こがらすづくり)とも呼ばれています。桓武天皇の元に伊勢神宮の使いとして大きな烏が飛んできて、刀を落としたという伝承から「小烏丸」と名付けられました。
代々平家一門に受け継がれてきた家宝でしたが、1185年に起こった壇ノ浦の戦いにて平家一門は源氏に敗戦し、滅亡してしまいます。この戦いで小烏丸も海に沈んだといわれていました。しかし江戸時代になり、平家一門の流れを汲む伊勢家にて小烏丸が保管されていたことが判明します。その後は対馬の宗氏の手に渡り、1882年に明治天皇に献上されました。
■一期一振
一期一振(いちごひとふり)は粟田口吉光(あわたぐちよしみつ)という刀工の手によって手がけられました。粟田口吉光は名前の通り、前述した鬼丸国綱の作者である粟田口国綱と同門であり、「粟田口派」と呼ばれる彼らは、来派一門と並んで2大流派として名高い一派です。粟田口吉光は粟田口派の中でも高い評価を受けていた刀工の一人で、その高い技術から「天下三作」の一人に数えられています。
彼は短刀の名手として知られ、多くの短刀を手がけてきましたが、唯一作刀した太刀ということで「一期一振」と名づけられたといわれてきました。しかし、後年の研究により他にも吉光が打ったと考えられる刀が見つかったため、「生涯の最高傑作」という意味合いが込められている、という説も有力です。一期一振は毛利家由来の太刀でしたが、無類の名刀好きとして知られる豊臣秀吉の手に渡ります。
その後は秀吉の子である豊臣秀頼に受け継がれたものの、大坂夏の陣にて豊臣家が徳川家に敗北し、この際に本太刀も焼失しました。勝利した徳川家側にて刃の焼き直し(再刃)が行われ、徳川家が代々所有します。幕末になると、第15代尾張藩主である徳川茂徳によって孝明天皇に献上され、現在に至ります。
御物を見ることはできないのか
現在御物は宮内庁の管理の下、山里御文庫と東山御文庫で管理されており、常時公開されているわけではありません。実物が見たい方は、特定の美術館にて数年に一度公開されることがあるので、その際のみ閲覧できます。そのため東京国立博物館などの情報を随時チェックしてみてください。
御物は日本が誇る伝統の品々であり、多くの名刀も皇室が所有しています。それぞれの品が長い歴史の中で数多の偉人の手に渡ってきた刀剣にはロマンを感じます。実際にお目にかかれるチャンスはなかなかありませんが、もし機会があればぜひ美術館に足を運んでみてください。