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公開日:2021/06/01  

あの武将の愛刀にも入っている?日本刀の刃文の一種「皆焼」について!


日本刀は武器としてだけでなく、その美しさから美術品としても楽しめます。鑑賞する際は「刃文(はもん)」や「地鉄(じがね)」、「銘(めい)」などが注目されているようです。中でも刀文は刀工ならではの特徴が表れやすく、刀ごとに個性が見られます。この記事では、刃文の一種である「皆焼(ひたつら)」について紹介しましょう。

日本刀の刃文とは?

日本刀の「刃文」とはどういうものでしょうか?日本刀の「刃文」とは、刀を光にかざすことで見られる、刃先部分の白い波のような模様のことです。その美しさから、日本刀における最大の美術的・装飾的な要素とされています。日本刀製造の工程である「焼き入れ」「土置き」を行うことで、刀工によって個性が異なるさまざまな刀文が生まれるようです。

土置きとは?

「土置き」とは、刀身に刃文の意匠を施す作業を指します。焼き入れと並んで日本刀製造における最終段階であり、修製不可能な最重要工程のことです。土置きは刀を形成した後に焼き入れを行う前段階に当たり、刀身全体に不純物の少ない耐火性の粘土や木炭、砥石の粉などを合わせた「焼刃土(やきばつち)」を塗っていきます。焼刃土は乾いた後に表現する刃文を想定して、焼きを強く入れたい部分には薄く、入れたくない部分には厚く塗り分けるようです。

焼き入れとは?

「焼き入れ」とは、強度を増すことで切れ味のよい刀へと仕上げる作業のことです。土置きした刀身を高熱で熱した後に一気に水で冷却することで、刃先の鋼が変化し刃文が浮かび上がります。また焼き入れをすることで、日本刀独特の特徴ともいえる「反り」が生まれるのです。焼き入れの温度が高い場合には「沸(にえ)」、温度が低い場合には「匂(におい)」と呼ばれる粒子から成る、粒の大きさの違いによって刃文の見え方は異なります。土置き、焼き入れによって刃文の形状が変化し、刀工の個性が表れることから、刃文の仕上がりによって日本刀の価値そのものも左右されるようです。

刃文の一種「皆焼」とは?

「皆焼(ひたつら)」とは、刃文の一種で刃部のみならず平地・鎬地・棟の各部まで焼き入れが行われたことで、刀身全体に網目状の模様が一面に広がっている物を指します。皆焼は南北朝時代の「五箇伝」のひとつとされる「相洲伝」の刀匠、広光によって作られました。湯走・飛焼などの手法を強調した皆焼は、相州伝の特徴のひとつであり、織田信長の愛刀で国宝としても知られる「へし切長谷部」の作刀をした長谷部国重も得意としたそうです。

皆焼の種類にはどのようなものがある?

皆焼は大きく分けて2つの種類が存在します。ひとつは「沸できの皆焼」といって、硬軟2種類の鉄を混ぜ合わせて鍛えた鋼に、均等に焼刃土を塗り焼き入れを行い、硬い鉄にのみ焼き入れが入ったことで、沸の飛ぶ焼きが発生したものです。沸できの皆焼は相州伝の広光・秋広・長谷部国重などが得意としており、高い完成度を誇る沸できの刀が生まれました。

もうひとつは、「匂できの皆焼」といって、均質の鋼に焼刃土を塗った上に、さまざまな形をした厚土を置いて焼き入れることによって発生したものです。匂できの皆焼は室町時代以降、綱広一門によって作られた「末相州物」、室町時代中期に駿河で活動していた島田派、伊勢国桑名の千子村正などに多く見られます。刃文において,皆焼は華やかであることから判別がしやすいといわれているようです。その中でも、皆焼刃が美しい刀について紹介していきましょう。

脇差銘勢州桑名住村正

室町時代後期に三代にわたって栄えた伊勢桑名の名工、村正が制作した刀です。村正は徳川家に不吉をもたらす「妖刀」として恐れられていたことから、徳川家と敵対する大名たちがこぞって買い求めては隠し持っていたともいわれています。この脇差の刃文には焼きの高い互の目乱れ(ぐのめみだれ)の皆焼に金筋・砂流しがかかっており、村正の個性が存分に発揮されたひと振りとなっているのです。

刀(金象嵌銘)来国真

「来国真(らいくにざね)の秀作と評され、重要刀剣に指定されているひと振りです。8代将軍である徳川吉宗の隠居祝いとして賜られ、その後は酒井忠恭が移封された播磨姫路藩において酒井家に伝来しました。国真の在銘作(刀剣・器物などに作者の名が記されていること)は少なく、太刀・小脇差・短刀に銘が切られた物もあり、中には鎬にまで焼きが入った皆焼風を帯びた「長谷部派」によく似た作品も存在します。

 

この記事では、日本刀の芸術的要素を含む刃文の一種である皆焼について解説していきました。日本刀の美しさを担う刃文・皆焼には、刀工それぞれの個性が表れており、武器としてだけでなく鑑賞して楽しむこともできます。刃文・皆焼は日本刀ならではの特色であり、人々の心を魅了する芸術品としても、大きな役割を果たしているのです。自身で日本刀を所有している場合は、皆焼についても注目して鑑賞しましょう。

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