Skip to content
公開日:2022/01/15  

日本刀の魅力の一つ!刀身彫刻の種類をご紹介


日本刀の魅力といえば、細くしなやかな姿や刃文の美しさなどが挙げられますが、職人によって繊細に施された刀身彫刻も人々を惹きつける要素の一つです。刀に彫刻を彫る目的はさまざまで、時代や刀身の強度によっても異なっています。今回は、刀身彫刻を「実用性」「信仰心」「装飾性」に分けて詳しくご紹介していきます。

実用性を重視した彫刻

刀身彫刻の歴史は古く、奈良時代より前から存在していました。平安時代から技法が確立され、より実用性を重視した彫り物が施されるようになったのは鎌倉時代以降といわれています。

刀剣彫刻の中でも「樋」といわれる鎬地に彫られた溝は、刀剣が曲がってしまうのを防ぐ作用があるだけでなく、彫刻を施すことでその分軽量化でき、刀自身の強度を上げることも期待されています。刀剣は敵と戦う際の武器なので、人々が使いやすいようにより性能を重視した形になっていったのでしょう。

掻通し(かきとおし)/掻流し(かきながし)

刀剣における最古の手法で、茎尻まで樋が貫かれた形式のものを指します。古刀期以降では珍しく、古い刀の写しとして稀に見られる程度でしょう。掻流しは、茎の途中で自然に彫り止められたものを指します。

片チリ/両チリ

チリとは鎬(しのぎ)を彫った時に残っている鎬地のこで、片方にわずかに残ったものを片チリといい、樋を挟んで両側に残したものを両チリと呼びます。

丸止め/角止め

掻流しの次に古い形式だといわれている技法です。「丸止め」とは刀身と茎の境界部分における最も端の部分が丸いものを指し、しっかりと角ができるように彫られものを「角止め」と呼びます。

棒樋/添樋

刀剣彫刻において最も多くみられるもので、刀身に沿って彫られた1本の太い樋のことを指します。シンプルな彫り物ですが、幅や彫りの深さなどで個性が出る部分といわれています。また棒樋の上部にもう一つ細く彫られた部分を「添樋」と呼びます。

連樋/二筋樋

「連樋」とは添樋の種類のことで、棒樋の先端まで細い1本の樋を仕立てたものを指します。「二筋樋」とは太さが同じ二つの細い溝のことを意味しています。どちらも繊細な技術で彫られているのが伺えるでしょう。

腰樋

刀身の3分の1くらいの長さまでに短く彫られたもののことを「腰樋」と呼びます。茎の付近に細く短く彫られているのが特徴です。

信仰心を重視した彫刻

戦乱が続くようになると、武士の間で厚く信仰されていた密教の影響が刀剣彫刻にも現れてきます。刀剣に戦勝加護や厄除けの意味が込められ、彫刻によって表現されるようになりました。それぞれの時代背景とともに刀身彫刻はさまざまな技法が生まれていったのです。

梵字

密教などで信仰される神仏の名前が彫られたものです。文字は古代インドで使用されていたもので、最も多いのが不動明王の名が記されたものだといわれています。

不動明王

密教の本尊「大日如来」の化身である不動明王。人々を救うためにあえて怒りの表情を浮かべています。煩悩を絶ち、仏教の道へ導く存在として信仰されています。

独鈷(どっこ・とっこ)/三鈷剣/素剣

密教の世界で使われる「金剛杵」の一つで、煩悩を払うことが目的の法具です。素剣とは不動明王が持っている剣を簡単な形に施したものを指します。

羂索(けんさく・けんじゃく)

元は鳥獣を捕まえるための縄を指しますが、仏教では人々を残さず救済する仏の心を象徴しています。刀剣にもしばしば施される彫刻となっています。

倶利伽羅

刀身彫刻の一つで不動明王の功徳を象徴しています。倶利伽羅とは不動明王の化身「倶利伽羅龍王」のことで、剣に龍が巻き付いた姿が特徴的な彫り物です。

這龍/玉追龍/昇龍/降龍

龍は古代中国における信仰の一つで、日本の刀身彫刻では玉や天を追う龍の姿がしばしば伺えます。偉いものほど頭を垂れるということから、下を向いているのが「昇龍」で上を目指しているのが「下龍」と呼ばれます。

爪・鍬形

三鈷剣の爪を簡略化した形を表したのが「爪」で、これを長くかたどったものは「鍬形」と呼ばれます。

蓮華・蓮台

不動明王の冠で知られる「蓮華」や不動明王が座る「蓮台」も刀身彫刻においてよく用いられます。密教を信仰していた武士に好まれていたようです。

神仏の名号(みょうごう)

鎌倉時代後期から彫られるようになりました。名号としては戦勝加護の御利益がある「八幡大菩薩」「春日大明神」などが多く施されています。

装飾性を追求した彫刻

長く続く戦乱の世が終わり、平和な時代がやってくると刀剣に込める人々の思いも次第に変わっていきました。室町時代の後期から、とくに江戸時代になると戦道具としての刀剣から、より美術的な刀剣へと移ります。刀の持ち主が好む歌や縁起のよい動植物などあらゆる彫刻が施されるようになりました。

江戸時代には復古思想(過去の優れた状態に戻そうとする思想)から、万葉和歌や漢詩が彫られた刀剣も数多く作られるようになりました。

人物

毘沙門天(勝利、福徳)、大黒天(五穀豊穣、商売繁盛)、大和武尊(出世、除災)、達磨(開運、魔除け)が挙げられます。

自然

松竹梅(長寿、成長、気高さ)、鶴亀(健康長寿、子孫繁栄)、梅龍(倶利伽羅龍を梅木になぞらえたもの)、上龍下龍(天から地上に、地上から天へ向かう龍)が挙げられます。

文字彫り

陰彫(文字や絵をくぼませて彫る技術)を用いて彫った文字です。漢詩や和歌など、気に入った文字が彫刻されるため、刀の持ち主の思いや個性が現れる部分となります。

 

刀剣は鉄でできた武器のため、そのまま使うには重く扱いづらいという側面があります。そのため刀の重量を軽くし、曲がりにくくする工夫が必要なことから溝を彫るという技術が生まれました。そこから時代が移り変わり、刀剣に「美」を求める風潮がやってきて、より装飾性を追求した彫刻が登場し始めます。現在は、さまざまな美術館・博物館で実際の刀剣を鑑賞できるので、見る機会があればぜひ彫刻にも注目してみてください。

よく読まれている記事