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公開日:2021/09/01  

買取に出そうと思ったら刀が錆びていた!そんな時は研師に相談


日本刀が完成するまでに、さまざまな職人が関わっていることを知っているでしょうか。鍛錬して成型する刀工や鞘を作る鞘師、研ぎに精通した研師、鍔や目貫などの小物を作る金工師などの高い技術を持った職人の手によって、ひとつの作品ができ上がります。この記事では、研師の具体的な仕事や、現在全国に何名くらいいるのかなどを紹介しましょう。

研師とは

刀を研磨するには2つの方法があります。新しい刀を磨き上げて、地鉄と刃文の明るさと暗さや光と影を際立たせること、もうひとつは、古くさびてしまった刃を研磨して本来の姿をよみがえらせることです。どちらにも共通するのが、刀としっかりと向き合いながら、その中に潜在的にある美しさを探して、表に導くことでしょう。

日本人には古墳時代から、神を祀るための道具のひとつとして刀を奉納してきた歴史があり、その中に神様に似た魂があると信じてきました。職人たちは、鏡のような輝きを与えることを目的として、研磨技術を習得することに日々取り組んでいたのです。日本で初めて行政法と民法、刑法の3つが揃った本格的な律令である大宝律令に、研師という言葉が出てきます。つまり、研ぎに精通した職人が、奈良時代にはすでにいたことがわかるでしょう。職人が打っただけでは、断面の形が明確ではなく、地肌の黒い部分と刃の白い部分の区別がつきません。

それを研師が「地」、「刃」、「棟」、「切先/鋒」それぞれの部分をひとつずつ丁寧に研磨することによって、地と刃の対照が鮮明になります。地肌と刃文がはっきりと区別して認識されることで、日本刀としての美しさが生まれるのです。研師の役割は、日本刀の機能性と美しさを引き出すことだと考えられています。

日本刀の研ぎ方

日本刀の場合は茎を除いた全体を研ぐ必要があります。砥石を変えながら、さまざまな工程を経て仕上げていくのです。研ぐ工程は大きく2つに分けられます。

下地研ぎ

下地研ぎは、初めは目の粗い砥石を使い、徐々に細かい砥石へ変えて研ぐことでむらをなくす工程です。

1.金剛砥:さびがひどいときに、さびを落として刃こぼれや刃まだらを直します。

2.備水砥:棟→鎬→地→切先/鋒という順に研ぎ、細かい刃こぼれや薄さびを取り除きます。

3.改正名倉砥:2の跡を取るように、筋違いの方向に研ぐようです。

4.中名倉砥:3の跡がなくなるように、さらに細かく研ぎ目を消す工程です。

5.細名倉砥:すべての砥目を残さず消して、鑑賞できるように仕上げます。研磨力があまりないので、これまでの工程でなるべく不備がないように整えなければなりません。

6.内曇砥:最終工程で砥石が細いため、引くときに力をこめて作業します。刃中の働きが現れるよう、熱を持つくらい丁寧に時間をかけて行うのです。

仕上げ研ぎ

仕上げ研ぎでは、工程に合わせて道具を変えて進めていきます。

1.刃艶:刃艶砥を使って、砥汁をかけながら下から上に向かって磨いていきます。次に大村砥や青砥を使い、薄くなるようにと整え、漆と吉野紙で裏打ちするのです。この刃艶の目的は刃をこすり、刃文のにえやにおいを出すことだといえるでしょう。

2.地艶:地艶を親指の腹に乗せて砕いていきます。砥石の薄さやサイズなどで効果が変わるので、熟練された研師の技が重要となります。

3.拭い:まず地鉄を黒くし、その後光沢を出す作業です。刀工が鍛錬したときに飛び散った酸化鉄を使います。この工程を経ることで、砥石目はほとんどなくなり、地が青黒くなります。

4.刃取り:拭いにより地鉄や焼刃が同じように黒くなってしまったものを白くする作業です。ただ白くするだけではなく、その刀のよさを引き出す、センスが問われる工程といえます。

5.磨き:鎬地と棟をヘラや磨き棒を使って光沢を出します。この工程を経ることで刀身が刃の白さ、地の青黒さ、鎬地の漆黒という3つの鏡面を持つのです。

6.ナルメ:切先の下の部分と帽子と呼ばれる刃文を研ぐ工程です。

7.流し:研師のサインを帽子の裏棟や鎺(はばき:刀身の手元部分の金具)に入れて完成です。

プロの研師は全国に約50人

プロとして働く研師は、2021年5月現在で全国に50名程度います。刀匠資格を持つ職人の下で5年以上の修行を経て、美術刀剣刀匠技術保存研修会に参加することで刀工になれるのです。研師は国家資格ではなく専門学校などがないため、専門店などで開催されている研修に参加し、コンクールで入賞することで実績を積みます。

刀職人の全国大会もあり、入賞することで実績につながるのです。新しい刀だけではなく、歴史のある古いものを研いで美しい姿をよみがえらせることで、日本文化の素晴らしさを伝承していく責任のある職業といえます。

 

刃物の切れ味をよくするだけではなく、その作品の持つ本来の美しさや持ち味を引き出す研師という職業についておわかりいただけたでしょうか。職人であると同時に芸術家として、センスや目利きの才能が問われるやりがいのある仕事です。

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