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公開日:2021/07/15  

日本刀の製造に欠かせない!「玉鋼」は一般的な鉄と何が違うのか?


世界でもっとも純粋な鋼といわれている「玉鋼」は、現代では日本刀の製造において欠かせない原料として知られています。しかし、古来より受け継いだ技術でのみ製造が可能なので、玉鋼が使用されている刀も限られているのです。この記事では、なぜ玉鋼が日本刀の製造に不可欠なのか、またその名前の由来、一般的な鉄との違いについて解説します。

玉鋼とは?

「玉鋼(たまはがね)」とは、どのようなものなのでしょうか?玉鋼とは、日本古来の製鉄法であるたたら製鉄の「鉧押し法(けらおしほう)」によって直接製鋼法された鋼の中でも、ごく僅かしか作ることのできない貴重な鋼のことを指します。玉鋼という名称は、明治中期以降に呼ばれていたものです。

天文年間(1532~1554年)の頃には、不純物が少なく白く輝いている様から「白鋼(しらはがね)」と呼ばれる、現代の玉鋼に相当する良質な鋼の存在が確認されています。玉鋼は炭素の含有量が1~1.5パーセント前後であることから、炭素量を減少させながら鍛え上げていく日本刀の素材に適しているといえるでしょう。

また不純物の含有量が極めて低く、玉鋼に含まれる成分のバランスが均一に取れているため、鍛えるだけで「刃金(はがね)」として使用できるため当時から重宝されていました。

玉鋼という名前の由来

次に、玉鋼という名前の由来について解説しましょう。玉鋼という名称については、江戸時代末期には既に存在していました。当時では、たたら製鉄によってでき上がった不均一な鉄の塊(鉧)を「大ドウ」と呼ばれる装置で粉々にしたことによって、選別された細かい粒上の丸い玉のことを玉鋼と呼んでいたのです。

しかし、「上質な鋼」として玉鋼と呼ばれるようになった経緯については諸説あります。

ひとつは、明治時代に陸海軍に直接所属し軍需品を製造していた「工廠(こうしょう)」が、坩堝製鋼されたものを大砲の砲弾(玉)として用いていたことに由来するという説です。もうひとつは、人間の拳大に割られた鋼を「玉」と呼称していたことから、派生して玉鋼と呼ばれるようになったという説があります。

玉鋼と一般的な鉄の違いはどこ?

それでは、玉鋼と一般的な鉄の違いとは何でしょうか?一般的な鉄というと、スプーンやフォーク、包丁、フライパンなどといった、調理器具を連想する人が多いのではないでしょうか。

これらに使用されている鉄は「鉄鋼」といわれ、車や飛行機などの乗り物やビルや鉄道など社会のインフラを支えるものなど、幅広い産業で利用されています。鉄鋼のほとんどが鉄鉱石を主原料とした合金であり、玉鋼と同様にもとは砂鉄から作られた合金です。それぞれ含有される炭素量によって、性質や種類が異なっていきます。

高温の鍛錬で作り上げられる強靭さ

玉鋼と鉄の大きな違いはその「粘り」にあります。粘りとは素材の折れやすさであり、素材が硬ければ硬いほどその分折れやすくなるのです。精製された鉄は炭素量が増えるにつれて硬度が増しますが、それに比例する形で粘り強さが落ちてしまいます。反対に炭素量を少なくすることで硬度は落ちてしまいますが、その分柔らかく伸ばしやすくなるでしょう。

普通の鉄であれば力を加えることで多少形を変形させることができますが、鋼は熱を加えなければ変形させることができないほどの硬度を誇ります。日本刀の特徴を称する際によく「折れず、曲がらず、よく切れる」と表現されることがあり、見聞きしたことがある人もいるでしょう。

「折れない」ということは柔らかくなければいけないということであり、「曲がらない」ということは強靭な硬度が必要であるということです。この柔らかさと強靭な硬度を誇る刀身を作り上げるには、鋼に含まれる成分と製造工程で行われる加工が重要となってきます。原料となる玉鋼に含まれる炭素量は1~1.5パーセント前後といわれており、非常に純度の高い鋼です。

そして「折り返し鍛錬」と呼ばれる高温で叩いて、伸ばして、重ね合わせる工程を15回ほど繰り返し行っています。この工程で玉鋼に含まれる僅かな不純物を細分化させ、取り除いているのです。玉鋼に含まれる非金属介在物(金属材料の中に存在する酸化物などの非金属物質)によって、柔らかく伸びやすいという性質があります。折り返し鍛錬を行うことで「折れず、曲がらず、よく切れる」粘り強い刀に仕上がり、地鉄に文様が表れるなど、美しさにおいても日本刀の製造においては欠かせない鉄素材なのです。

 

この記事では、日本刀の製造において必要不可欠な玉鋼の特徴や名前の由来、鉄鋼との違いについてご紹介していきました。日本刀の製造において、玉鋼は正に核となる重要な役割を果たしているということがわかりましたね。技術の革新が目まぐるしい現代においても、未だに玉鋼に代わる日本刀に最も適した原料が現れていないこと、その稀少性において、玉鋼の存在は日本刀において必要不可欠であるといえるでしょう。

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