日本刀を彩る要素は色々ありますが、その中で最も目を引くのは、やはり刃文です。
華麗な彫金の施された鍔や装飾豊かな鞘、柄や小柄等のその他の刀装も、もちろん素晴らしい物ですが、それらとは違った美しさがあります。鋼と火と水と土を材料に、刀工の高度で複雑な技術によって瞬間の変
化を写し取ったその造形は、昔から日本人の心を捉えて離しません。その知識についてまとめていきます。
刃文とは何?まずは概要を知っておこう
刀身の地と刃の部分の間に出来る線の事で、刀の模様とも言います。
様々な種類があり、時代や刀鍛冶の流派、刀工一人一人でも異なる特徴があり、これが鑑定の際に大きな手がかりとなります。
刀の歴史は非常に古いですが、平安時代中期以降に作られた物を日本刀と呼びます。
江戸時代に入って太平の世が続くようになると、刀は武器としてよりも美術品として扱われるようになり、時代の流れに従い、刃文もそれまでの自然な形よりも、外見上の美しさを求めて沢山のデザインが生み出されました。
華麗で斬新な物も多く、この時代(江戸時代元禄期)以降の刀をまず見るのがおすすめです。
見学をしたい場合は、やはり美術館や刀剣博物館に行くべきですが、ひとつ注意すべきポイントがあります。
展示されている状態によっては、見えにくい場合があるからです。
光線の当たり方で見えたり見えなかったりするので、上下左右色々な角度から見ると、刃先に他とは違う白い模様が浮き上がる時があるはずです。
刃文が出来る工程「焼き入れ」とは?
「焼き入れ」は熱した刀身を水に漬ける重要な工程です。
刀工はこの「焼き入れ」の工程が最も緊張すると言われています。一度焼き入れを行うと、やり直しが効かないからです。
温度一つとっても、高過ぎれば刃切れと言って刃に亀裂が入って駄目にしてしまいますし、低過ぎれば焼きが入りません。
このため、焼き入れの作業は夜に行います。
照明を落として真っ暗にし、鋼の色を見て温度を正確に判断する必要があるからです。
この判断は経験に頼る所が大きく感覚的な物なので、焼き入れの工程を一層難しくしています。
「焼き入れ」の前の工程に「土置き」があり、焼場土(やきばつち)と呼ばれる粘土を、刀身に塗ります。
焼場土は粘土に炭粉や荒砥粉などを混ぜて作られます。
刃の部分には薄く、棟の部分には厚く塗り、この状態で「焼き入れ」を行う事で鋼に化学変化が起きて、沸(にえ)と匂(におい)と呼ばれる細かい粒子が表出します。
沸と匂は基本的には同じ物で、粒子の細かさの違いで呼び分けています。
粒子が荒いのが沸で、細かいのが匂です。沸と匂が集まって、波のような形を作っているのです。
「焼き入れ」のタイミングや、熱した時間、温度、焼場土の配合など、様々な要素でその形が変わってきます。
焼場土を厚く塗った棟側は冷却のスピードがゆっくりなので焼きが入らず、硬くなりません。
また、時間をかけて冷やされる事で縮むので、反りが発生します。
一方で、薄く塗った刃側は、急激に冷えるので、焼きが入り硬くなります。
こうして「折れず曲がらず」の柔軟性を持った刀を作る事を可能にしています。
こんなにある!刃文の種類あれこれ
「直刃(すぐは)」と「乱れ刃(みだれば)」の2つに分かれます。
直刃はまっすぐな線の事で、乱れ刃は波打つような形になります。
直刃のうち、焼幅の広い物を広直刃(ひろすぐは)、焼幅の狭い物を細直刃(ほそすぐは)、普通の物を直刃、それよりやや広いものを中直刃(ちゅうすぐは)と呼び分けています。
乱れ刃は様々な種類があり、その中でも「互の目刃(ぐのめば)」は、一定の間隔で波打つ物をいいます。
これに対して「濤乱刃(とうらんば)」は、不規則で大きな波の形になります。
同じ不規則な波でも、やや波の間隔が狭いのが「丁子刃(ちょうじば)」です。
丁子刃は「大丁子刃」と「小丁子刃」に分けられます。
「三本杉刃(さんぼんすぎば)」は、規則正しい山の形の波が連なっていて、孫六兼元作の刀の特徴として著名な「湾(のた)れ」は、直刃と乱れ刃の中間的な物で、大きな波がゆったりと波打つ文様をしています。
長曽祢虎徹で有名な「数珠刃(じゅずば)」は、互の目刃の一種で、文様が数珠玉を連ねたようになっています。
変わった所では「皆焼刃(ひたつらは)」という物もあります。
刃だけでなく、棟や鎬や地の部分にまで焼き入れを行った物です。
この他にも様々な種類があり、また、時代や流派、刀工によって細かく分かれていきますので、全てを覚えるのは難しいです。
把握するためには、まず基本的な物を覚えて、少しずつ見て確認する事を繰り返すのが近道です。
刃文とは何か、そして「焼き入れ」と種類について解説してきました。
専門的な用語が多く、一度に覚えるのは難しいですが、日本刀の美しさの重要なポイントですので、鑑賞をする前にあらかじめ知識を得ておくと、より深い理解と楽しみが得られるでしょう。
日本の素晴らしい文化の一つですので、是非取り組んでみて下さい。