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公開日:2022/08/01  

知らなかった!下賜・献上された歴史を持つ日本刀


下賜(かし)という言葉を聞いたことがありますか?身分の高い貴族や皇族といった人々が、自分より身分の低い人になにかを与えることを意味しています。勲章のようなものだとイメージするとわかりやすいのではないでしょうか。昔の日本では刀を贈ることに特別な意味がありました。今回はそのことについて解説します。

刀を贈ることには重要な意味があった

刀は戦いの道具だと思っている方も多いのではないでしょうか。もちろんそのイメージは間違っておらず、古来日本では戦争の度に刀が大活躍していました。一方、日本刀は贈り物としても長く親しまれてきているのです。弥生時代や古墳時代といった紀元前の頃、刀は神に捧げる神聖なものとして扱われ、見た目が美しかったり有名な人物が作ったりと、刀そのものが神として人々に崇められることもありました。

当時、日本には殺傷力に優れた金属製の武器は存在しておらず、恐怖と霊威の対象になったといわれています。さらに、日本刀は刀匠がひとつひとつ手作りすることから、魂が宿るという扱いを受けていました。信仰の対象であり、それを使う武士たちの支えのような役割も果たします。そして、魂が宿っている高貴な刀を贈るというのは、天皇と家臣、武士同士といった人々の絆の象徴でもあったのです。人から人へ送られた刀は、そのまま送り主と受け取り主をつないでいました。

下賜と献上の違い

下賜と献上は対義語に当たります。下賜が身分の高い人から低い人に物を贈るのに対し、献上は身分の低い人から高い人に物を贈ります。献上は謙譲語に当たると思えれば誤用を防げるでしょう。また、下賜に似ている言葉として恩賜という言葉がありますが、下賜が物を贈る行為を意味するのに対し恩賜は物を貰うことや贈られた品そのものを意味します。

下賜された刀剣たち

下賜された日本刀として有名なものを紹介します。日本で最も有名な武将といっても過言ではない織田信長は、自身の愛刀であり国宝でもあるへし切長谷部を黒田官兵衛に下賜しました。織田信長は多数の名刀を秘蔵していたといわれていますが、このへし切長谷部は織田信長が無礼を働いた茶坊主を棚膳ごと圧し切ったことからこの名前がつけられたのです。織田信長がへし切長谷部を下賜した経緯は、黒田官兵衛が小寺政職に織田信長の味方につくよう進言したことを評価したためでした。その後、黒田家へ伝来したへし切長谷部は、1936年には国の重要文化財に指定され今でも国宝として扱われ福岡市博物館に寄贈されています。

土方歳三の愛刀・和泉守兼定

新鮮組の復調として知られている土方歳三は、会津藩主・松平容保から和泉守兼定という日本刀を下賜されました。和泉守兼定は土方歳三が所有していた刀の中でもっとも有名な刀だといわれています。会津藩主の刀工だった和泉守兼定は、刀に自分の名を冠していたのです。土方歳三は寸違いの兼定を複数所有するほど気に入っていたとのことでした。現在は土方歳三記念館に所蔵され、土方歳三の命日である5月11日に毎年公開されています。

献上された刀剣たち

献上された日本刀として一期一振があります。刀工・粟田口義光が作った刀の中でも、とくに評価が高く正宗・郷義弘と共に天下三作に数えられている刀です。粟田口義光は主に短刀を作ることが多く、太刀として残したのは一期一振のみ。そのことからも希少性が高まり、「伝説の刀」「粟田口義光の最高傑作」など称賛の嵐を受けていました。毛利家が所有していた一期一振は1度豊臣秀吉に献上されたものの、大坂夏の陣の際に焼かれてしまいました。その後、徳川家康が信頼のおける刀鍛冶に再刃させ、元の姿を取り戻したといわれています。さらにその後、1863年には当時の孝明天皇に献上され、現在も御物として歴代天皇が保持しているのです。

平安時代の名刀・鶴丸国永

平安時代の刀工である五条国長が作った鶴丸国永は、その美しさと完成度の高さからさまざまな人が欲しがったといわれている名刀です。反りが強く鶴丸の模様のある優美な見た目が特徴的でした。北条定時や織田信長など、日本の有名な武将が所有していたといわれています。その後、仙台藩の伊達家に渡りますが、それまでにも多くの人が鶴丸国永を所有していたとされています。明治維新が終わった後は明治天皇に献上され、現在は宮内庁が御物として管理。同じ御物である一期一振は伊勢神宮の神嘗祭で使用されるなどその姿を見られる機会がありますが、鶴丸国永は2009年には東京国立博物館で展示されたものの、ほとんど人の目に晒されることはありません。代わりに、写しが展示される機会はあるようです。

まとめ

下賜・献上された日本刀について説明しました。下賜は身分の高い者から低い者へ、献上は身分の低い者から高い者へ贈り物をすることです。日本の長い歴史の中で、日本刀は価値があるだけでなく人と人とを繋ぐ重要な役割を果たしてきました。このほかにも有名かつ下賜・献上されてきた日本刀はたくさんあります。ぜひ展覧会や博物館で実際に見てみてはいかがでしょうか。

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