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公開日:2020/03/15  

日本刀に塗る油は何のため?

日本刀を所有するのではあれば、刀身の手入れを怠ってはいけません。長く放置したままの刀は錆が出て、とても残念な状態になってしまうことが非常に多いです。長く所有するにも買取店に出すにも、やはりきちんと手入れをする心がけは大切です。ここでは日本刀に塗る油について詳しく解説します。

日本刀に油を塗るのは錆を防ぐため

日本刀の刀身を手入れする際、なぜ油を塗るかというと錆を防ぐためです。これを古くから丁子油(ちょうじあぶら)と呼び、現在でもそのように呼ばれることも多いでしょう。

丁子はチョウジノキというフトモモ科フトモモ属の常緑樹で、採れるオイルは力士の髷を結うときのびんつけにも使われており、いい香りがすることで知られています。現在でもアロマオイルのクローブオイルとして親しまれていて、エッセンシャルオイルとして多用されています。

この丁子、古くは正倉院にも見られるほどかなり昔から日本へ輸入され、生活の中で広く利用されてきた歴史があることは確かなのですが、刀の錆止めに関して言えば疑問があります。

というのもエッセンシャルオイルは揮発性なのでそれ単体では錆止めにはならず、酸化もしやすいので向かないことは事実なのです。日本に古来からあり錆止めにも適しているのは酸化しにくい椿オイルで、実際に工具などには椿オイルが使われていた歴史があります。

そのため果たして丁子が刀に使われていたのか、使うべきかは現在でも論争になっている点は知っておくべきでしょう。実際には古来も丁子は使われておらず、椿オイルが使われていた可能性もあります。財団法人日本美術刀剣保存協会の見解では、当時何が錆止めに使われていたかは厳密には確認できず、椿オイルに丁子の香りをつけていたという可能性も指摘されています。

現在は「丁子」の名だけが残っている

現代で日本刀の錆止めを買う場合は、刀剣類を取り扱っている店舗で市販されている商品を購入することもできます。ただ種類はほとんどなく鉱物性(石油系)のものが多いので、やはり植物性のものは主流ではなさそうです。

鉱物性のもののほうが刀身を傷めず効果が高いと言う声も多く、無色で無臭、取り扱いもしやすく値段も手ごろです。それでも名称としては丁子油と呼ばれることが多いため、それで混同する人が少なくありません。

刀の錆止めと言えば丁子というような古くからの慣習があり、丁子という名称を使ってはいるものの、実際に刀身の防錆効果が高いのは鉱物オイルだと理解すればよいでしょう。刀の手入れをするためには丁子オイルでなければいけないと、四方八方探し求める必要性はなさそうです。

ただしいずれにせよ、刀身を錆から守るためにはなんらかのオイルを塗らなければならないのは、古来も現代も変わりありません。多くの日本刀愛好家がさまざまなオイルを塗っていますが、中には楽器用のオイルを塗ったり、植物系にこだわったり、主義主張を繰り広げている分野でもあります。

現代人の錆止めと言えば機械オイルですが、現代の化学薬品が刀身に悪影響を与える可能性が拭えない限り、避けるべきとする意見もあるようです。

そして毎日確実に手入れをするから何も塗らないという人も中にはいるようですが、やはり基本的にはなんらかのオイルで錆を防ぐのが主流でしょう。いずれにしても一度オイルを塗ったらそれでよいというものではなく、古いものはぬぐい取り、定期的に塗り直すメンテナスをしてこそ美しい輝きを保てることは間違いありません。

正しい手入れ方法をマスターしよう

日本刀のオーナーになるなら、正しい手入れの方法を習得する必要があります。シンプルに言えば、刀身の古い油をぬぐい去り、新しく塗り換えて刀身の錆びを防ぐというのがメイン目的です。汚れた古いものをできるだけすべてぬぐい、くまなく膜を張ることが大切で、そのために必要な道具をそろえて順序立てて実施する必要があります。

まず、必要な手入れ道具をそろえましょう。目釘抜(めくぎぬき)というのは刀の目釘を抜く道具です。打粉(うちこ)は砥石を細かくして粉にしたもので、それを30g程度紙でくるみ、上から綿や絹などでくるんだ丸い形のものです。これも市販されていますが、ポンポンと刀身をたたくことで白い粉が出る道具です。特徴的な道具なので、時代劇などで刀の手入れをする場面で見かけたこともあるでしょう。

ぬぐい紙は下ぬぐい用で油を取り、上(あげ)ぬぐい用で打粉を取りのぞきます。そして肝心の油と油塗紙を用意すれば、ようやく手入れに取り掛かれます。

順序はまず目釘抜で目釘を抜き、刀を鞘から抜きます。刀の柄をはずして鎺(はばき)をはずし、拵付のものは切羽(せっぱ)や鐔、鎺もはずします。 刀身だけになったら下ぬぐいで古い汚れをふき取り、打粉をたたいてかけ、上拭いを繰り返します。終えたら錆が出ていないか目で確かめ、最初の手順を逆に追って目釘を打って鞘に入れれば終了です。

 

日本刀の刀身に油を塗る理由は、錆を防止するためです。刀は放置したままでは錆が出てしまい、美術品として価値を損ねてしまうことになります。古来にどのようなものが使われてきたかは厳密には定かではありませんが、現在では市販されている鉱物系オイルか植物系オイルのどちらかを利用することになります。

いずれにしても定期的な手入れは欠かせませんので、所有するなら正しい方法をマスターしましょう。買取店に出す場合も、錆がなく美しい刀身のほうが評価が高くなります。

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