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公開日:2020/09/01  

日本刀の「押形をとる」とはどういうこと?

日本刀に関係する専門用語として、押形をとるという言葉があります。これは刀が持っている情報を紙に記録するというもので、特に古い時代の資料が数多く残っています。そんな押形の具体的な内容や、目的について詳しく知ってみましょう。

さまざまな情報を紙に写したもの

日本刀のイメージとしては、反ったシルエットで中央に凸線が入っているものを誰でも簡単に想像できるでしょう。しかしより近くで見てみると、それぞれ異なる情報を数多く持っているのがわかるはずです。

そして原則として人の手で作られているため、ひとつとして同じものはありません。それをこと細かく紙に記したのが押形で、写真がない時代から使用されてきた方法です。具体的な特長としてわかりやすいのが刃の部分で、刃文という波状の模様が入っています。

金属素材から作る際には何度も熱しと冷ましを繰り返しますが、その冷ます際にできあがる模様です。刃文には偶発的な要素も含まれるため、全く同じ見た目にすることは不可能です。

さらに刃文には刀を作った刀匠やその流派によって、異なる特徴が現れやすい部分でもあるため、記録するためには大切な要素です。また柄を外した茎の部分には、作成した人が銘を打ち込んでいたり、ヤスリといって流派を示すための傷が付けてあることが多いです。

使用に支障を来さない程度の直線で構成される傷が付いている方向や大きさが、製造者を示す暗号のような役割を果たします。それを写しとったものも押形のひとつで、長い刀であれば紙の上で分割して全体が記されていることも少なくありません。

基本的に和紙を使って作っていく

押形をとるためにはまず、刀の全形を紙に写すことから始めますが、古くから和紙が使われる場合がほとんどです。紙を刀の上に置いた状態で、重りで固定し、石華墨という丸い形をした固形墨を使って縁をなぞっていくと、紙に忠実なシルエットが描けます。

そしてそこからは実物を見ながら、紙に直接書き込んでいきます。また茎は情報として必要な部分が基本的に凹凸のみで構成されているので、より忠実に記録するためにこすり出しをすることが多いです。

したがって多くの押形は、全体で見た場合に下のほうが黒くなっている特徴があります。作成をするためには、必要な道具がない時代ならまだしも、現代だと資料になるほどのものには精密さが必要なので、熟練した技術が求められます。

特に刃文はどの刀でも規則性がなく、非常に細かいレベルでのカーブの繰り返しで模様が作られています。ただの線ではなく濃淡を伴っているので、筆や鉛筆を使って忠実に再現していきます。それを紙の上でおこなうためには、刃文をしっかり捉えられる観察眼や、特徴を確実に描写できる能力も欠かせません。

ただ仕上がりを気にしないのであれば作業自体誰にでもおこなえて、必要な道具もそこまで珍しいものはありません。写真を見ながらでも細かい部分がわかれば可能で、実際に教室が開かれていたりするので、体験できるところは多いです。刀のことをより詳しく知る機会なので、実際に試してみるのも良いでしょう。

作成される目的にもいろいろある

刀は現代では価値のあるものとして扱われることが多いですが、昔から実用性と芸術性と共にその考え方はありました。そしてもちろんどちらでも、優れたもののほうが少数で価値が高いのは変わりません。そのためもちろん贋作も数多く存在していたので、押形が見分けるために役立ちました。

また刀は金属でできているものの切れ味を出すために非常に薄く作られ、研磨によって美しい状態が維持されるものです。そのため非常にデリケートで、破損したりなくなってしまうことも多かったので、その記録としても使われました。

したがって刀のほうは現代ではすでに失われていて、資料のみとして残っている押形は数多くあります。その中でも最も古いものには、1300年代に作られたとされる「銘尽」という刀剣書が現存しています。完全な状態で残っているわけではありませんが、中には絵が描かれている部分があります。

当然重要文化財として指定されていて、古い時代から刀が重宝されていたことをうかがい知ることができる資料です。押形の名前は、文字通り紙を押し付けて形をとるということが由来だと考えられます。けれど古い時代では鉛筆などの固形墨がなかったので、筆が使われました。

その場合は押し付ける手法が使用できないので、全て目視で確認しながら写しとられています。「銘尽」を始めとして、歴史的に有名な資料にはそのようにして作られたものが多いです。

 

現代では写真があるので、ただの資料として記録するために押形を使用するのは現実的ではありません。しかしポイントを抑えているシンプルな図解の役割も持たせられる上に、伝統的な技法のひとつでもあるので、現代でも用いる場面は多いです。

また卓越した技術によって作成されたものには、写真にも劣らない程の信頼性があるとも考えられます。すでに現存していない刀の情報を知るために、信頼性の高いものは有用な資料になります。そのうえ文化的な価値もあるので、日本刀の歴史には欠かせない要素です。

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