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公開日:2020/07/15  

日本刀の保管に必要な白鞘とは

刀はそのまま抜き身で持ち運ぶと危険なので、基本的には刃先を収納する鞘とひとセットになっています。そして鞘にもいくつかの種類があり、その中に含まれるのが白鞘です。ではその白鞘にはどのような特徴があり、何のために使用するのかを確認してみましょう。

刀を保存するために使用するもの

通常刀の鞘は加工に適している朴の木を素材として使用し、外側を丸く削った上に漆で保護するものです。そして先端部分の石突や刃をしっかりと噛ませるための鯉口、鞘本体が抜けてしまうのを防ぐ返角など、機能面で必要な要素は数多くあります。

そのうえ装飾面を含めると、手を加えなければならないところはさらに増えます。白鞘とは同じ朴の木を使用しながら、そういった加工を施さずに無垢材のまま使用する鞘のことです。形を整えるために削り加工が施されることはありますが、全面に木の質感が出ています。

その名前は無垢白木の色をそのまま使っていることが由来です。任侠もののドラマなどでよく懐から出される短刀、それを長くしたものだとイメージしやすいでしょう。また国民的アニメの刀使いが持っているものとしての印象も大きいです。

なぜそのような仕上がりにするのかというと、長期間使用しない刀を保存するのが目的です。刀が大量に作られていた時代にはもちろんステンレスなどなく、素材は基本的に鉄や銅でした。つまり放っておくと非常に錆びやすいため、丁重に扱わなければならず、特に水分が大敵でした。

そして通常の鞘だと加工が施してあるため、内部に湿気が溜まると考えられたので、無垢材の湿度調整機能を頼って白鞘が選択されました。現代でも呼吸するなどの謳い文句で住宅の建材として無垢材が使用されますが、それと同じ効果が期待されたわけです。無垢材の表面には小さな穴が空いていて、そこから湿気を吸い込む性質を持つため、効果はあると考えられます。

実際に現代であっても、装飾用の刀に使用されることは多いです。収納する際には刀に錆びを防止するための油を塗りますが、しっかり作られたものであれば、その油の効果を発揮させるために刃が触れないような構造をしています。

分解しやすいように作られているのが特徴

白鞘という名前なので鞘だけのイメージを持たれるかもしれませんが、基本は柄の部分も同じ素材で作られ、収納すると一本の木の棒のような見た目になります。そして無垢材であっても湿度を完全に調整できるわけではないので、錆びてしまうことも当然ありえます。

そのことを考えて、白鞘は分解が簡単にでき、内側の掃除がしやすいような構造になっています。具体的には最中のように2つの木材で刀を挟み込むような形で、それを接着剤で張り合わせて鞘状にします。

接着剤としては、身近にあるご飯を糊にして使用されるのが基本でした。柄の部分も同様に木材で挟み込んだ後、目釘を打ち込んで抜けないようにするだけです。一番の目的である刀を劣化しにくい環境作りのために、余分な要素は排除されているのが特徴です。

実戦向きとしては作られていない

分解しやすいように作られている性質上、白鞘はあくまでも保存用で、腰から下げたり人やものを斬るといった実用目的には向いていません。特に柄の部分は、実際は目釘を打った後に柄紐をしっかりと結びつけて固定します。

数ある刀剣の中でも日本刀特有の柄紐は、平らなものをねじりながら結んでいくため、大きな凹凸ができます。それが柄をまとめるだけでなく、握った際の滑り止めの役目を果たすため、安心して振り回すことができます。

しかし加工していない柄のままではたとえ木の質感が手に馴染んだ感覚であってもすり抜けたり、些細な衝撃で簡単に割れてしまう可能性が高いです。また鞘自体も実戦では相手の刀を受ける鞘の役割を果たすことがあったため、その点においても無加工の白鞘は劣ります。

時代劇やアニメでもそのまま居合斬りなどで使用されていることが多いですが、それはあくまでも演出上格好良く見えるから取り入れられていると考えたほうが良いです。そのため実際には保存できるほど余分な数を持っていた上流階級が多く使用し、刀全体で見ると割合はそこまで高くありません。少ない本数しか持っていなかった侍は、刀を休ませるような余裕はありません。

また刀の歴史と比べると新しいほうで、江戸時代末期から明治時代辺りに普及し出したとされています。そのきっかけのひとつと考えられるのが明治に出された廃刀令で、武器として使用することができなくなった刀は、保存するしか選択肢がなかったからです。

 

映像作品では刀がよく白鞘のままで使用されているため、そういったデザインの拵えなのだと思っていた人が多いかもしれません。特に鞘紐がなく手で持ち運ぶ演出になるため、腰に差すかどうかの違いだと考える人もいたのではないでしょうか。

さすがに実戦で白鞘を用いているような作品で、保存用という描写がされることはないでしょう。しかし使用目的や歴史を知識として知っておくと、別の解釈ができてより楽しむことができるかもしれません。

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