武士社会を象徴する武器といえば刀であり、鋼にさまざまな鉱物を加えて合成をした玉鋼を使って熟練の技師が高温と戦いながら打ち続けることででき上がる剣です。そんな刀を振るときにはいくつか技法があるのですが、技法の中でも有名なのは「峰打ち」です。峰打ちは刀の切れる部分でなく、裏側の部分で相手にぶつける方法のことです。
峰打ちは相手を殺さないために生み出された技法
峰打ちとは、切る部分ではなく裏側にある少し厚めに作られている部分で相手にぶつける方法のことです。そもそも切る道具のはずの刀の技法の中に不殺の技がある理由は、戦国時代といっても公に侍や武士が人を殺すことをご法度にしていたためです。大河ドラマなどで侍や武士が人を切る光景を見かけますが、これはあくまで演出であり実際には人を殺すこと自体はあまりやっていませんでした。
人を切り殺すのはあくまで自衛であり、たとえば切りかかってきた相手が自身と怨恨がある場合、自身と同格もしくはそれ以上の相手だった場合、3人以上の複数人を相手にするときにやむなく行うだけです。自衛目的ではなく試し切りなど悪意を持って人を切り捨てた場合には、さすがの戦国時代でも犯罪扱いとなり指名手配を受けたうえで切腹を命じられてしまいます。
さらに、自衛目的であっても、それが本当に自衛だったのかどうかを証明することが難しいです。そこで自衛ということそしてなぜ襲ってきたのか証明する方法として、刀でも硬い部分で相手にぶつけることで殺さずに生け捕りをして情報を聞き出すために峰打ちが生み出された背景になります。
戦場では峰打ちのほうが主要技術だった
不殺の技といわれていますが、ここで気になるのが「日本刀の峰打ちは本当に強いのか」という点です。実は、不殺の技といっていますが、それはあくまでヒットさせる場所がお腹や足といった人命にあまりかかわりがない場所に限った場合になります。人命にかかわる頭部や首そして心臓や肋骨部分に振り下ろすと、簡単に骨を砕いてしまい命にかかわる大ダメージを与えてしまうのです。
不殺の技にするためには、あくまで的確に人命にかかわらない部分にヒットさせる、もしくは勢いをコントロールして命に係わるダメージにしないことが条件になります。そのことから峰打ちをうまくできる人間は、戦国時代において最高クラスの日本刀の使い手ということがわかるのです。
そもそも峰打ちという技術は、戦場において最も使われている技術になります。なぜ戦場で最も使われているのかというと、実は切る部分は戦場ではあまり役に立っていないためです。何度もいうように日本刀は人や物を切るために使いますが、戦場で刀を使うということはあまりせず実際には弓や槍のほうが利用頻度は高かったのです。
その理由として戦場は命を守るために甲冑を切るのですが、その甲冑は鋼や銅でできているため玉鋼でできた刀であっても簡単に切り落とすことができない硬度になります。切るほうを使った結果と、固い甲冑に受け止められてしまえば隙が生まれてしまい、自身が相手にやられてしまうリスクを作ってしまうのです。
そのため刀よりも、遠い射程で戦うことができる弓や槍そして織田信長が初めて使った火縄銃が戦場の主戦力になります。それでも相手に近づかれすぎてしまえば弓や槍といった遠い射程で使う武器は意味をなくすので、そこで相手との距離が近すぎる状態になって初めて刀を使います。
ただ何度もいうように刀を使うにしても、甲冑で受け止められてしまえば隙が生まれてしまいます。そこで甲冑に受け止められても、その衝撃で甲冑越しにダメージを与える方法として刀の裏側を使って相手を叩くことで悶絶させるのです。悶絶させてしまえば、相手は動けなくなるのでそのときに刀の切る部分を使って甲冑の隙間を狙い相手の腕や首を切り落とすという形になります。
峰打ちが何度もできる刀は上質
戦場で相手を動けなくする技として生み出された峰打ちは、戦国時代が終わった後は相手に実力差を認識させて人を殺さない自衛の技として定着することになります。そしてこの技ができたことによって、実は刀鍛冶にとって腕前を証明するのにも役に立ったのです。先にいったとおりこの技が生まれた背景には、硬い甲冑でも相手に衝撃によるダメージを与えるために作られた技術になります。
確かに刀の硬い上部部分でたたくことになりますが、同じ鋼や銅で作られた甲冑を叩くということは最悪のケースとして衝撃によって折れてしまうこともよくあったのです。逆に考えれば硬い甲冑など硬いものを何度叩いても織れない日本刀は、刀鍛冶にとって腕前を証明するのに最適な指針になります。丈夫で見た目がよいことは、現在社会の骨董品買取においては上質品として扱われることになるのです。
日本刀の峰打ちって本当に強いのかという疑問においては、一般的に不殺の技といわれていますが、これはあくまで打ちどころを考えて打った結果です。
実際は固い甲冑越しに相手を悶絶させる技なので、打ちどころが悪ければ簡単に人間の命を絶つことができる技でもあります。この技を不殺するためには、使い手が技術を高めて相手を殺さないように手加減をする必要があるので剣道を極める人間にとっては目標ともいえる境地なのです。
ただ不殺を極めるためには、しっかりと刀の品質も重要になります。峰打ちをするための刀は何度使ってもおれないことが条件なので、刀鍛冶としては品質が求められます。何度使ってもおれない日本刀は名刀として扱われ、買取において高い評価を得ているのです。