買取りに出す前に手入れをするのは常識です。しかし物によっては、手入れをしないほうが良い場合もあります。
その一つが刀剣であり、大変繊細で扱いが難しいため素人判断で手入れをするのはよくありません。
ここでは刀剣の買取り前にありがちな、NGポイントに触れていきます。
素人判断で研ぐと価値が落ちる
包丁を砥石で研ぐと切れ味が復活します。多くの家庭で行われている日常的な風景でもありますが、日本刀の場合は、絶対にしてはいけません。買取り査定や鑑定士らは、美術品としての価値を重視するため、切れ味などは重要視されないからです。
買取りの際に鑑定士がチェックするのは製作者や所有者、太刀や打刀、小型や脇差、種類や流派が主であり、価値があるものは多少錆びついていても大きく変化しません。むしろ刀剣はそれ自体が美術品であることから、素人判断で研いでしまうと価値を落としてしまいます。
刀剣を正しく研ぐことができるのは、日本刀を専門とする研師です。研師は太刀や打刀、小刀などの知識と技術を持つため、その価値を落とすことなく本来の美しい姿に仕上げてくれます。研師は刀を専門にしているため、包丁やナイフといった刀でないものを研ぐことはありません。
もし日本刀を自分で包丁のように研いでしまうと、刀身の長い刀のバランスが悪くなり、見た目が不格好になります。刀専用の砥石や手順を踏まえない作業により、日本刀特有の波紋が消えてしまうといったトラブルも考えられます。
買取りでは、刀の持つ美術品的な価値が重視されているため、多少のサビつきがあっても構いません。武具専門店が独自に研師に依頼すれば、必ず本来の姿に戻せるからです。素人判断で手を付けてしまうと取り返しがつかなくなります。
刀剣の研磨に必要な工程と様々な砥石
刀の研磨をする際は、まず鍛冶押し(荒研ぎ)で刀身の形を整えます。鍛冶押しでは刀身の形や線を定め、最終的な出来栄えを考慮しながら仕上げます。いわば刀剣研磨の設計図や方針に相当する部分です。
下地研ぎでは、肉眼でもわかるほどの粗い目をもつ砥石で研ぎはじめ、次に細い目を使った砥石で研ぎます。目の違ういくつもの研石を使って作業することで、錆びつきを少しずつ落としていきます。包丁の場合は1つの砥石で済ませますが、刀剣は下地研ぎだけでも7種類の砥石が使われています。
刀剣用の砥石の目は、粒度によって使い分けられます。刀に付きやすい赤錆などは120~220番までの粒度を持つ伊予砥を使って落とし、次の工程のために刀身の形状に調整します。次に400番の備水砥をつかって刀身の細部や調整、作られた時代に合った肉置の形にしていきます。切っ先以外の部分を研ぐために800番の改正砥を使用して最新の注意で肉を落とします。
1000~1500番の中名倉砥を使って大筋違に研ぐことでムラを消していきます。刃文や地肌がみえてくると2000番の細名倉砥を使って砥石目を残さないよう縫い仕上げ、刀らしい白い色合いを与える内曇刃砥で研ぎ、地鉄や地沸のも作ろ実が出るように内曇地砥で研ぐと下地研ぎが完了します。
仕上げ砥ぎでは、日本刀独特の艶を出すため行います。使用するのは1㎝四方、0.5mm厚にした刃艶砥を使って指で挟んで滑らせるようにして研ぎます。最後に1mm以下厚にした鳴滝砥を使って同様に研いでいきます。以上が「研ぐ」工程ですが、この他にも刃取りや磨き、なるめといった工程があります。
日本刀を錆びさせずに保管する方法
日本刀を砥ぐ最大の理由は、錆落としです。鉄を素材とする刀は、酸素に触れることで酸化し始め、そのまま放置すると錆ができ、刀の表面を覆うようにして広がっていきます。最悪の場合は、切っ先から茎(なかご)部分まで錆びることもあります。
このような錆がなければ、砥ぐ必要もないということになります。錆から刀を守るには、定期的なメンテンスを行います。用意するのは目釘抜きや拭い紙、袱紗や打粉、化粧用コットンと油等です。まず刀身を茎(なかご)から外し、刀身を持って拭い紙で刃についた古い油をきれいに拭き取ります。
次に打粉を刀の表裏に3cm感覚でやさしく打ち、きれいな拭い紙で白い粉を落とします。この打粉を打って拭うことを3~5回ほど行うことがポイントです。最後に化粧用コットンに油を染み込ませて刀に塗っていきます。このとき塗りすぎないように注意します。最後に拭い紙で油を軽く拭き取って終了です。
作業するさいは、刃で指を切らないように注意します。また油には、刀剣専用の植物油や機械油があります。植物油は長く放置するとサビつきの原因ともなるため、機械油をおすすめします。またメンテナンスのタイミングは3ヶ月に1度が理想的と言われています。
日本刀の天敵であるサビは、独特の水を打ったような波紋を消してしまうだけでなく、放置することで広がっていきます。定期的なメンテナンスをすれば、より長く価値を維持できます。
刀剣の研磨は、素人判断でしてはいけません。先ほど説明したように専門的な知識と技術を持つ研師でなければ、本来の魅力を引き出せないからです。もし錆が付いてしまっていたら、刀剣専門店でメンテナンスを依頼することをおすすめします。