現在は空前の日本刀ブームが到来していると言われています。そのきっかけは日本刀をキャラクターにした某ネットゲームの人気で、特に女性を中心に注目を浴びているのです。せっかくなので日本刀のことも深く知っていくのも良いでしょう。ここでは刀の各部分のなかで「はばき」について説明してきます。
鈨は鞘から刀身がすっぱ抜けないための安全装置
日本刀に詳しくない人は、「はばき」という言葉を初めて聞いたかもしれません。これは漢字で書くと鎺または鈨と書き、ここからは「はばき」を鈨と表現させていただきます。
具体的に鈨は日本刀のどの部分を指すかというと、刀身の手元の部分に嵌められている金具のことですが、時々勘違いされる人がいますが鍔迫り合いの「鍔」とは違います。鍔は柄に取り付けられていますが、その鍔よりも向こう側の刀身そのものに取り付けられているのです。この鈨と鍔は根本的に役割が全然違っています。
鍔は刀と刀が交わったときに、握る手を斬られないように守るため道具、つまり防具の一種となります。先ほど述べた鍔迫り合いのとき、鍔のおかげで相手の刀身が自分の手に触れないように守ってくれているわけです。
一方、鈨は刀身を鞘に納めているときに不意にすっぽ抜けないようにする道具、つまり安全装置となります。鋭利な刃であるため、名刀になると刀身の重みのみで肉が斬れるとも言われているほどです。
もしも、意図せず刀身が剥き出しになってしまったら、持ち主だけでなくその周辺の人々にも危害が及びかねません。少し力を加えることで鞘から抜き出せるようにするため鈨が取り付けられているのです。
そのため、日本刀以外にも鞘におさめる刃物の多くにこの鈨が取り付けられており、鞘がセットになっている包丁にも当然取り付けられています。その鈨の素材は金無垢・銀無垢・銅無垢が主で新しいもの(江戸時代)ほど金無垢が多いです。
ちなみに、この無垢とは「混ざり物がない」という意味で金無垢とはつまり純金製ということになり、江戸時代後期の頃では、鈨は機能としてだけではなく美術品としても注目が集まっていました。鈨からその武士の身分や資金力を窺い知ることもできたと言われています。
ただし、希少性から銅よりも銀、銀よりも金の方が機能的にも優れていると思われがちですが決してそうではありません。というのも、金無垢・銀無垢は金属のなかでも柔らかい部類になるため、使用し続けると変形してしまうからです。
一方、銅無垢は叩き締めると堅くなる性質があるため、機能的にはこちらの方が優れています。ちなみに、金属の鈨が使われる前は、木片が使われていました。
機能性だけでなく装飾品としての価値
日本刀は銃刀法で制約があるため特定の免許を持つ人でなければ所持することができません。しかし、刀身以外のアイテムならば、銃刀法に抵触することもなく所持することができ、それは鈨でも同様です。鈨だけで売買されているケースも少なくありません。というのも、先ほど述べたように鈨の素材は金無垢や銀無垢などの貴金属が用いられおり、価値のあるものだからです。
そして、江戸時代の日本刀になると、刀そのものの機能性よりも美術的な価値に重きを置くようになり、さまざまな細工が施されるようになりました。それは鈨も例外ではなく、その細工で多いのが家紋であり、所有者が誰かを見分けるためのポイントとしても機能していたと言われています。
それ以外にも、市松模様や松や桜などの植物、そして、猫や馬といった動物が彫られている鈨もあるほどです。鈨だけを見ても十分に楽しめることができます。
鈨専門の鍛冶職人の白銀師の存在
そして、江戸時代以前までは刀匠自らが鉄で鈨を作っていたのがほとんどですが、江戸時代になると鈨専門に手掛ける「白銀師」または「はばき師」と呼ばれる職人が現れてきました。なぜ白銀師と呼ばれるのかというと、専門の職人が登場した頃に頻繁に鈨の素材として使われたのが銀つまり白銀なのです。
この白銀師の登場によって、ただ鞘からすっぽ抜けないようにするための鈨に美術的な細工が施されるようになりました。そのため、今でも有名な白銀師の鈨は美術館で飾られていますし、市場でも高値で売買されることも少なくありません。
明治以降になると廃刀令によって日本刀そのものを打つ鍛冶職人が減ったため、それに合わせて白銀師もいなくなりました。
鈨(はばき)とは、鞘から刀身がすっぽ抜けないように留めておくための金具のことで、日本刀以外にも鞘に納める刃物には取り付けられています。その素材は昔は木片で作られていましたが、江戸時代に入ってから金無垢・銀無垢・銅無垢などが多く、さらに江戸時代後期になると装飾品としての価値も高まりました。
江戸時代以前までは、刀匠自らが鈨を作っていましたが、江戸時代以降になると白銀師と呼ばれる鈨専門の鍛冶職人が登場し、有名な白銀師では今でも美術館で飾られていたり、骨董市場で高値で売買されています。